活動実績等

(株)IHI 横浜エンジニアリングセンターにて
第186回安全キャラバンを実施

2022年3月11日、(株)IHI 横浜エンジニアリングセンターにおいて、第186回安全キャラバン(安全講演会、ワークショップ)をおこないました。

1.安全講演会


 (株)IHI 原子力SBUでは、福島の震災以降、決して忘れてはいけない、風化させてはいけないという思いで、「3、11講演会」に毎年安全に関する講演会を開催していることから、講演では、原子力安全推進協会 安全基盤部 安全文化G 部長 越前正浩より、「安全と組織文化 組織事故から学ぶ教訓」と題して、安全と組織事故の関係、そして過去に起きた組織事故を学び、後半のワークショップでは自らの組織文化を振り返り、自らの行動についてどのような行動が必要かをグループで議論を進めて頂きました。

講演に先立ち、緒方原子力SBU長より
ご安全に。
原子力安全推進協会の皆様、まずはですね、こういう貴重な場をいただきまして、誠にありがとうございます。
せっかくのこの機会を十分に活用してしっかりと原子力安全を見直ししたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。
原子力安全推進協会の皆様は、各社、事業所、あるいは原子力発電所を回って原子力安全の啓蒙活動を進めていただいております。
また、IHI原子力SBUにおいては、3.11、11年前になりますけども、地震により発生した福島の原子力発電所の事故、それから得られた教訓を決して忘れてはならない。決して風化させてはならない。ということで、3.11講演会を毎年開催しております。昨今の再処理施設のしゅん工、それから原子力発電所の再稼働にむけて、高操業が続いている中で、それを支えていただくために多くのSBU外から応援の方々に来ていただいております。その中には、原子力事業に携わるのは初めてという方もおられます。従いまして、今日、この機会は、ぜひ初めて原子力事業に携わる方については原子力安全というのがどういうものなのか、それから長らく携わっている方々については、改めて原子力安全の重要性について学びなおしていただければと思います。今日3.11という非常に重要な、そして忘れてはいけないこの日にこの講演会を開催させていただきました。今日は講演会、そしてグループワークが予定されていますけれども、ここで学んだことを、ぜひ、日々の業務の中の最もベースとなる基盤としてこれを認識して業務に臨んでいただければと思います。今日はどうぞよろしくお願いします。
とのご挨拶を頂いた。



講演会では

安全と組織文化の関係として

・世間では「安全文化」というと何やらISOみたいな規格がまた一つできたように思っている人が多いようです。実はそんな方法論めいたことではなく、分かりやすく言えば組織の経営や体質の改善自体がテーマなのです。まさに経営管理と直結した「ものの考え方」や「見方」です。このことは、本日の講演を通じて皆さまには是非腹落ちして頂きたいと思っています。それがどうやって安全ということにつながるのか?そのようなお話から始めたいと思います。

・文化とは、その世界を「どう見て」「どう意味付けるか」ということです。物事をどう受け止めるか次第で、当然そこから先の意識や行動も変わります。つまりパフォーマンスに効いてくるわけです。その中にはもちろん安全という側面も含まれるでしょう。組織の場合、組織自体に固有の文化が備わり、知らず知らずに皆のマインドを上書きしていきます。それが安全に役立つのなら何も問題はありません。ですがその正反対のことが起きると、「あの組織の体質に問題がある」となり炎上してしまいます。そうならないよう、私たちは「らしさ」とは何かを理解し、それと安全の関係をよく理解しておく必要があるのです。

・組織文化のモデルとして「3層モデル」が有名です。この3層モデルでは組織文化を形あるものから形のないものまで3層に分けて理解する視点を提供しています。これらが一体として作用し合うことで組織の文化が維持・強化され、或いは変化するのだと考える訳です。一つだけご注意いただきたいのは、特に形ある世界のこと、つまり第一層の「人為」の部分です。ここには仕事や管理運用の仕組みである「システム」があります。いわゆるマネジメント・モデルやQMS等外部からインポートされるものも含まれます。そうした外来のものは、組織固有の文化と調和していない可能性があります。それが従来の組織文化を変えていく契機となる事もあれば不協和によってパフォーマンス劣化の契機となることもあるとご理解下さい。また、第2層の中でも「言っている事」と「やっている事」は違っている、ということもあります。「ここにこう書いてあるから」それが組織文化だ、と単純には言えません。あくまでも全体としての組織の実態こそが問題なのだとご理解ください。

・3層モデルを氷山の内部を上下左右で繰り返される「相互作用」に注目して描いたイメージです。これは実験室のビーカーに入った溶液の喩えです。その中では成分同士が化学反応を繰返しています。太古の地球の海では、それが長年のうちにより複雑な構造の物質(例えばたんぱく質や酵素)を作り出したのです。このメカニズムを“自己組織化”による“創発”と呼ぶことはご存じの方も多いでしょう。このようなメカニズムが組織においても存在していてそれが組織固有の文化やパターンだと考えると、いろんなことが腑に落ちます。社風を表現する時、よく「人の〇〇」「組織の××」と言いますよね?最初からそういう風にしようと思ってやってきたというより、ちょっとしたことが連鎖してそうなったと理解する方が自然な気がします。もちろん創業者の精神が脈々と受け継がれるとか改革リーダーのもとで大きく変わるとかいうこともあるでしょう。ただ、その場合でも組織文化とは組織の中で共鳴して強化され定着するものであることに変わりはない訳です。

・組織の文化は、表面的な制度や仕組みを上書きしてしまう根強い力を持ちます。ただその一方では、組織自身がより大きな社会・経済システムの中の一要素でもある訳です。従って、組織といえども内外の変化に適応しようとする中でいつの間にか変質することもあるのです。当然、組織の中しか見ていない人にはこのような変化は自覚がありません。言ってみれば猛スピードで公転・自転している地球の表面に張り付いている住人が目を回したりはしないのと同じです。「いつの間にか組織の風土がすっかり変わっていて誰もおかしいと気付かなかった」というのは不祥事のたびによく聞く話です。皆さんにはこうした無意識の変化にも目を向けて頂ければと思う次第です。


組織事故の事例紹介
事例1 チェルノブイリ原発事故【1986年】

・最初の事例は旧ソ連時代に今のウクライナで起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故です。今を去る36年前の話なので、中には事故当時まだ生まれていないとか物心ついていないという方々もおいででしょう。大袈裟ではなく全世界、特にヨーロッパを中心に激震が走った事故でした。よくご存じの方も多いでしょうが、念のため事故のシーケンスをおさらいしたいと思います。まず、事故のきっかけとなったのは電力の安定供給に関するリスク管理の目的で行われた試験でした。
・事故直後から当時のソ連は運転員の数々の規則違反が事故原因だと説明していました。私たちも、「そんないい加減なことをしていたのか!」と聞いて皆驚いたものです。ところが、その後関係者の証言等から実情が徐々に判明してくるにつれ、実はそんな単純な話ではないことが分かってきました。それらを可能な限り反映させたのが前述のIAEA報告書(INSAG7)です。運転員に責任を押し付ける意図があった可能性あり。安全文化の意味は歪められて定着したのかもしれない。

事例2 コロンビア号の事故【2003年】

・次にNASAスペースシャトルコロンビア号の事故についてです。この事故に至るいきさつを理解するにはSSプログラムをめぐる組織の姿を頭に入れておくことが必要です。同じ機能も拠点単位(ジョンソンSC@テキサス:ヒューストンとケネディSC@フロリダ:以後ジョンソン及びケネディと呼ぶ)で分かれていることがお分かり頂けると思います。打上げから帰還までのミッション指揮も実は2つに分かれていました。一つはアドホックなミッション管理チーム(MMT:以後は「管理チーム」と呼ぶ)及びその判断を支援するミッション評価チーム(MER:以後は「評価チーム」と呼ぶ)です。もう一つはラインの司令部(MOD:以後は「司令部」と呼ぶ)です。こうしたマトリックス的な構造の複雑さが一つの大きな特徴です。赤字で示した管理チームとそのサポートに当たる評価チーム(MER)の位置付けをよく頭に入れておいてください。司令部(MOD)との関係はバックヤードとフロントラインの関係をイメージして頂ければよいと思います。バックヤードが全体を取り仕切っている感じです。もう一つ重要なことは、管理チームはメンバーが固定された常設組織ではないことです。フライトごとにメンバーが入れ替わります。そのため、例えば前回管理チームのチーフだった人が今回はフロリダで打上げの責任者だというようなことが起きている点にご注意ください。
・時期は約19年前、季節は冬でフロリダも寒波に見舞われていた時のことです。打上げの81.9秒後に外部燃料タンクの宇宙船取り付け部辺りから剥がれ落ちた断熱材の破片(デブリ)が左翼の強化カーボンパネル付近に推定約600~900㎞/hで衝突したことが打上げ翌日の映像解析で判明しました。これ程大きな破片の衝突は初めてだったのでシャトル左翼の損傷が懸念された訳です。
・このように、破片衝突の情報は組織内で広く共有されました。後はシャトルへのダメージを評価するのに必要な写真を撮ってくれと米軍に支援を求めるだけでした。ダメージが確認されたからただちに周回軌道上のシャトルを修理できるかどうかは分かりませんが、飛行士の安全を守るうえで当然の行動ですね。ところが、ここで信じられないことが起こります。その発端は、とても皮肉なことに、情報が広く共有されたことも一因になっています。これによって、組織内では大きく分けて3つ支援要請の流れが発生しました。1つ目は映像WGからケネディSCの打上げ責任者を経由して司令部経由のルート、2つ目は合同Tから情報を聞いた協力企業(USA)のマネジャーから司令部の調整局経由のルート、3つ目は本来の出発点である合同TからジョンソンSCの技術局を経由するルートです。①と②はいずれにせよ、本来想定された報告のラインからは外れています。奇妙なのは、③ですら本来定められた評価T~管理Tを経由する公式の情報ルートから外れていたことです。どうしてそんなことになったのか?多分、次の段階で起きたことを見ればその原因がお分かりいただけると思います。
・実は、打上げ6日目(1/21)までに国防省は先の②のルートで状況を把握していました。解像度の高い映像を撮る準備まで行っていたのです。後は、NASAからの依頼さえあればGoの状態でした。ところが、1/22朝の時点で事態は思いがけない展開を見せます。自分の知らないところで国防省(DOD)に映像支援を求める動きがあることを知った管理チーム(MMT)のチーフは「いったい誰が自分の頭越しに勝手なことをしているのか」とばかりに「誰の要請なのか?」と追及して回りました。ですが、関係者が多すぎたためか、それが誰とは特定できませんでした。そこで管理チーム(MMT)のチーフは「そんな要請は存在しない」と決めつけて国防省の準備をキャンセルしてしまったのです。一方、信じられない事ですが、管理チームのチーフはデブリの影響評価を担当している合同Tに全く確認を取っていないのです。如何でしょう?なぜ①~③のルートがどれもMMTを敬遠したか、もうお分かりですね?本質はさておき立場や形ばかりを気にして現場の話も直接聞こうとない管理者にかき回されたくないと思うのは世界中どこでも同じでしょう。
・この結果、高精細画像の取得は必要ないという全体の‘空気’ が出来上ってしまいました。合同Tの代表(NASA技術者)は、直属上司であるJSC技術局の管理職から‘依頼はしないことになった’旨の返信を受けて激怒し技術局トップへ抗議メールを書きましたが、職制上の遠慮・忖度で結局送らずじまいになりました。実は、管理Tのチーフが国防省への要請を取消した後も、評価T(MER)や管理Tは破片衝突の影響をそれなりに正しく検討はしていました。ところがそれ以上のフォローは誰もしなかったのです。
・ここで、もう一つ別系統の失敗が関係してきます。本来ならライン部門をチェックすべき安全・品質保証部門の機能不全です。NASA本部の安全・ミッション保証部門のトップ・マネージャー(副長官!)及びジョンソン宇宙センター(JSC)の担当者はラインの動きを知っており、国防省(DOD)に映像取得を依頼する可能性について相談していました。この席で副長官は管理Tと話し合うこともせず、プログラム管理者(つまり管理T)の判断を尊重すると言ったのです。その結果何ら行動はとられずじまいとなり、独立チェックはまるで機能しませんでした。驚くことにこの安全・ミッション保証部門というのは1986年に起きたもう一つのSS空中分解事故(チャレンジャー号事故)の教訓として設置された目玉組織でした。わずか17年の間に改革の目玉はすっかり形骸化してしまっていたのです。
・組織内ではこれではまずいと気づいていた人たちがまだまだいたのですが、いわゆる悪循環が生じていたため、ことごとく是正のチャンスを逃してしまいました。一方では、あろうことか、シャトルの乗組員は破片(デブリ)衝突の事実を知りつつ、大丈夫と言われて安心していたのです。実際には、すでに破滅への流れは定まってしまい、本来きちんと科学的な議論が行われるべき場も技術者たちの説明がまずかったせいや議題が多すぎたせいもあって、形ばかりで終わってしまいました。


事例3 米国Davis-Besse原子力発電所 圧力容器蓋の腐食【2002年】

・次は米国であった原子力業界のもう一つの事例です。これは事故の寸前までいっていたけれど未然に判明した事例です。この図は圧力容器の上部を垂直方向から見た断面図です。赤線で縁取った部分が内側のステンレス製ライニングです。赤丸はフットボール大の穴が開いた炭素鋼の蓋部分を示します。先ほどのページの写真では上部から腐食部を見た時にライニング部分まで見えていたことがお分かりいただけます。万一穴が貫通すれば冷却材喪失に至る大変な事故になる寸前で見つかった訳で、関係者はまさに肝を冷やしたのです。
・米国ではTMIの事故(1979年)があって、それこそ安全文化も含めた様々な面で対策を取っていました。その結果、安全安定運転にはある程度自信を持っていたその時にこの事象が判明したのです。
・米国では産業の競争力回復に向けて市場原理信仰が支配的となり、M&Aによる業界再編が大流行していた。そうした中で電力自由化に向けて原子力発電を所有する事業者にとって経営の効率化やコストダウンによる短期的利益の確保が差し迫った課題になっていた。人材の流動性が高く、組織や人の変化が激しかった。実務経験の乏しい人材がマネジャーとして登用されるようになっていた。当該プラントは伝統的に良好な運転実績を有しており、特に注意しなくても現場で問題は解決できているという油断があった。
・容器ヘッド貫通部の腐食リスクは10年前から知られていた。漏えいと腐食の兆候も、少なくとも2年前から存在した。しかし有効なチェックは実施されなかった。業界団体(INPO)によるピアレビュー等で問題の兆候を感じながら、もう一歩踏み込みが不足し見逃していた。巡視点検で腐食の兆候(ホウ酸の堆積物)は察知できると考えていた一方、記録の解析だけで運転延長を正当化できると考えるなどご都合主義な点が見られた。定量的な性能指標(PI)に頼り過ぎて(Davis-Besseは良好なPIのプラントで知られていた)、最小限の要求事項さえ満たしていれば後は構わないとする態度が強化された。

良好な組織の事例

・舞台は米国太平洋艦隊に所属する原子力潜水艦サンタフェ号です。この船は潜水艦部隊の劣等生で、冗談の種にされるほどでした。例えば、原子炉を背景にだらしない格好で大笑いしている乗組員の写真がネットに流出しけん責を受けたこともありますし、再乗艦希望者は約120名の中でたったの3名!だとか、新任艦長がクルーに声をかけても俯いて目も合わせずボソボソ呟くだけで皆が疲れ切った様子だとか、暗く沈み切った組織だった訳です。戦隊の司令官にも「サンタフェにはリーダーシップがない。 こんなことは珍しい…」と言われる始末でした。
・職位が上なら即ちリーダー。命令をする。その他はフォロワーで、(命令に)服従するだけ。指揮・命令は士官の役割。実施するのは非士官たち。あらゆる活動/変更は艦長の承認が必要で、個別事項について例外的に権限を委譲している形になっている。中間管理職とも言うべき班長は特権を認められているが、部下の兵卒の休暇を承認する権限もない。
・マルケさんはまず大型高性能の懐中電灯を携えて艦内を歩き隅々まで覗きまわることから始めました。そして、その中で出会う人々にあれやこれや聞いて回ってその思いや言葉に耳を傾けたそうです。その結果、班長達は力量もやる気もなく部下にも抑えが利いていない状況が分かりました。リーダーが指揮してフォロワーが命令に従う関係性を前提とした海軍式リーダーシップのスタイルは、(空回りすることで)こうした状況をむしろ悪化させていました。海軍式リーダーシップのスタイルは定型反復業務には向いているかもしれないが、瞬時の順応性やレジリエンスが重要な潜水艦のようなチーム行動にあたっては害となる可能性がある、とマルケさんは考えたのです。
・第一に、クルーを従順な召使としてではなく“彼ら自身の主人”として扱う、’ついてくる人’などではなく、誰もがリーダーである集団の主体の一人と考える。支配するのではなく、与えられた役割の中でそれぞれに100%決定権を渡す、というのが‘一丁目一番地’です。当然、すべて丸投げなどではなく、事前にこうしますという報告を受けてそれを承認する、というやり方でした。もし部下の方針に疑問があれば質問し、納得できなければ差し戻すということもやっています。サンタフェの組織改革には3つの柱があり、「リーダーシップの基本的枠組みを変える」こと以外にも「学習と思考を組織のモットーとして掲げる」ことや「共有すること・共感することを信条とする」ということも併せて艦長が率先垂範してみせた訳です。
・結論としては、組織のありようが‘学習する組織’へと変わった、ということがポイントだと考えられます。これは、誰かが一々言わずとも組織全体が常にベターを目指すようになった、ということです。それを可能にしたのが、大きな目標を共有しつつも自身が自らの主人公だというごく当たり前の世界観や関係性を植え付けたマルケさんのリーダーシップであり、学び・考えることをモットーとして、その時々の状況の下で最適な対処法を目指すことのできる組織の自発的な力を育てたことによるものです。これこそまさに望ましい安全文化(正確には安全に寄与する組織文化:Culture For Safety)の姿に他なりません。


質疑応答
Q シャトル事故を受け、その後の組織的な改善はどのようにすすめられたのか

A 公開されている報告書では事故が起きたところまでで、その後の経緯については今後の報告書として出てくるものと思います。ただし、コロンビア号の教訓という事をJANSIでまとめた資料を付けさせていただいています。今回のグループワークではそれぞれの組織で自分達がどのように行動しなければいけないかを議論していただく事としてしましたので、今回説明はしていませんが、この研修が終わった後に自分達のワークショップの結果と照らし合わせ、資料をご確認いただければと思います。

アンケートでは
・作業者に指示を出すだけではなく、目標や背景を共有することが重要であると感じた。
・おかしいと思うことに対して意見することの大切さを学んだ。
・事故を個人の問題と捉えず、組織の体質に問題無いかの視点で捉える必要がある。
・恐らくすべての不適合事例は組織に問題があると思う。

と組織事故を考えた意見や感想が多く寄せられた。

 

2.グループワーク

前半の講議で組織事故を学び、グループワークでは組織事故が起きる背景、自らの組織の状況からの課題について議論を重ねてもらいました。グループに与えられた具体的な課題は以下の三つです。


Q1.組織事故が起きる時には、組織はどのような状況になっているでしょう?
Q2.事故に至る時、どのようなメカニズムが作用しているでしょうか?
Q3.皆さんの組織の状況はどうですか?個人や組織の立場から何に気を付けることが大事でしょうか?

時間の関係で代表3グループから議論の内容を発表頂いた【主な意見】
・業務を進めていく上ではそれぞれの場面で工期やコストどちらを優先するのかリーダーがしっかり方向性を示せているか、それが適切に行われていないときに事故や不適合が発生している。疑問を思っても声を上げない要因として、声を上げることにインセンティブが無い。声を上げることに対してきちんと評価をしてあげることが重要。
・組織には混乱の状況、考えない状況、プレッシャーがかけられた状況、等のキーワードがあったと思われる。混乱の状況では指揮命令系が機能せず、納期コストのプレッシャーもあったと思われる。技術的な判断よりも経営的な判断が優先された。
・声が出る、風通しが良い、一人で決断しない、コミュニケーション、人のつながりが非常に大事だと考えた。納期やコストに関するプレッシャーがあり、設計根拠が曖昧であったとしても、良好なコミュニケーションがあれば解消することが出来たはず。もう一つは、ルールを守ることは必要と思うが、形骸化して現状に合っていなかったりしているのではないかと考えられる。根拠が明確にされていればルールが現状に合っているかどうかは比較的判断できるはずである。


発表後、講師の越前から
・本日のグループワークでは皆さんの作業のプロセスを良く観察させてもらいました。皆さん真摯に物事に取り組まれ、テーマを与えられると一致団結して取り組まれる組織と感心しました。またシステマチックに物事をとらえようとされている姿もさすがIHI様だと感じさせられました。本日の発表を聞いて感想を述べさせていただきます。
・一番大事なことは、「繫がり」なのだとあらためて思いました。人と人のつながりだけではなく、グループとグループ同士のつながり、ネットワークとシステムという言葉が良く使われますが、そのとおりで、世の中は非常に複雑で難しくて、システムやルールも万能ではないので、一つのルールに縛られるのではなく、それぞれの判断には伸び縮みが必要で、お互いがお互いを思いやって、思いがけないところに波及するのではなく、揺らぎやボタンの掛け違いが最後にはとんでもない状態になってしまわないように組織運営をすすめること。物事を立体的にみて一つのかけ違いをそのまま見過ごすのではなく様々なつながりで止めていくことが大事だとあらためて感じました。
・皆様には、本日のグループワークを通して様々なキーワードを繋げようとすると、それぞれが非常に絡み合っていることが分かったと思います。物事には良い面も悪い面もあって状況によってどちらにも転ぶことがあるという事をご理解いただけたと思います。どうやったらうまく進んでいくのか、ナレッジの適切な判断、一人の神様が決められるものではなく、みんなが協力して意見を出し、答えを出していくことであり、組織全体で問題を共有して、忖度なく常に最善のプロセスを見つけ出して行動していく。明るく風通しの良い組織を作っていくことが大事である。集合的な組織能力を育てていく。そのためにも経営者は人・もの・お金の経営資源を安定的に回しナレッジが上向きになるように仕向けていくことが大事です。

と講評並びに感想を述べさせてもらいました。

アンケートでは
・組織やコミュニケーションがどうあるべきかを考える良い機会になった。
・組織というテーマを他部門の方と話せて、新しい視点での意見を得られて有意義と感じた。

と、組織やコミュニケーションを考える意見や感想が多くありました。


また、今回はコロナ禍において久しぶりに面着によるグループワークを実施したが、
・時勢を考えるとweb会議を積極的に活用すべきと考えますが、今日のグループワークを通じて面着は距離が近くて良い。


とポジティブな意見も多く頂きました。

最後に本日のキャラバンを通じて、緒方原子力SBU長より



皆さんお疲れ様でした。
講評というものではありませんが、実は今日集まってもらったメンバーは幹部を除いて新しく原子力に来ていただいた方、久しぶりに来ていただいた方がほとんどであります。
皆さんには原子力SBUの組織や指揮命令系はこういう形で進めていくのだと教えてきたが、単に教えてきたつもりになっていたのかもしれない。組織と安全を考えた時に本日の講議でもありましたが、見える世界と見えない世界がある。見えない世界を見るように努力しなければいけないと考えさせられた。
原子力安全という言葉は、一般産業にはなかなか馴染めない言葉であり、我々はどちらかと言うと労働安全の世界でモノづくりをしてきた。一方原子力は大衆や社会に大変大きな影響を及ぼす産業であり原子力安全をしっかり推進する必要がある。このことは日頃、皆さんにも話をしているが、実際に何をどう進めていかなければいけないかという事になると明確に方針を示すことも胸を張って言い切れないところがある。今日の講義を聞き、グループワークを進めてきて、これから何をやらなければいけないか私なりにずっと考えていた。
一つのきっかけとして、講議の段取りがうまくいかず、講師からも申し訳ないという話をされていたが、今思うと「これは我々に考えてもらうための意図的なものだったのではないか(笑)」と考えさせられた。
我々自身で様々なリスクを想像し何が起きるか考え準備していくことが、日頃から常に必要なのだという事に気づかされた。何が見えているのか、見えない世界は何なのか一人一人も今後の安全文化の醸成に取り組んでほしい。
 
とのご講評を頂き、安全キャラバンを終了した。

以上