平成27年9月16日、福井県敦賀市にある日本原子力発電(株)敦賀発電所において、第156回安全キャラバンを開催し、安全講演会と安全情報交換会を行いました。
日本原子力発電(株)及び協力会社から107名の方が出席されました。
講演会の冒頭、JANSIプラント運営支援部の本田部長より、
「今回は、ヒューマンエラー(以下HE)の未然防止に関わる意識向上と行動というテーマにさせていただきました。
このテーマは、非常にタイムリーだと思っています。福島第一原子力発電所の事故によって失った原子力への信頼を取り戻すためには、HEを少なくしていくことが非常に重要です。一つのエラーから出来るだけ多くの教訓を汲み取ってそれを水平展開していくこと、また、上手くいっている業務から、その要因を汲み取ることも大事であると思います。
今回の安全キャラバンが、敦賀発電所のHE低減活動の一助になれば幸いです。」
との挨拶がありました。
続いて、日本原子力発電(株)敦賀発電所長 師尾 直登様から、
「敦賀発電所では、HE低減に向けた活動を行ってまいりましたが、なかなかゼロにはなりません。やはり、人が仕事をしている以上、HEというのは必ず発生します。いかに我々の意識の中でHE防止モードを働かせておくか、というところが重要ではないかと思います。
敦賀発電所は、再稼働に向けてもう少し時間がかかる状況です。こういった時期だからこそ、じっくりHE防止活動に取り組むことができますし、再稼働に向けて、HEを防止できる体質を作り上げていくことが大事であると思います。
JANSI様のご講演をきっかけに、HEに対する認識を深めていただきまして、職場の仲間と共有/活用いただけたらと思います。」
とのご挨拶をいただきました。
ご挨拶の後、JANSIプラント運営支援部 運営支援G. 奈良部長より「原子力発電所におけるヒューマンエラー防止対策について」 と題して講演させて頂きました。
◆HE防止に関する現場に密着した活動例として、福島事故前の福島第一/第二では、H17年頃から「挨拶・一声かけ運動」、TBM/KY、指差呼称等に始まり、Big Brother制度、ノウハウデータの活用等を行いました。それでもゼロにならないHEによる重大トラブルの対策として、H22年頃から撲滅キャンペーンを行い、ツールの使用徹底化や管理者による行動観察等を実施しました。具体的な取り組み例は、指差呼称、冊子による直接対話の励行、「失敗に学ぶ教室」での体験学習等です。
◆次に、福島事故後の柏崎・刈羽での活動です。社会からの信頼獲得/原子力安全の極限追及を目指し、継続的な変革・改善活動に取り組んでいます。「災害に強い」「世界に誇れる原子力発電所」になるという目標を達成するために、設備・業務品質の不適合低減、人材育成や現場力向上等のタスクを設け、背景や問題点から活動のプログラムを定めアクションプランを作成し、その動向を見ていく取り組みをしています。グループごとに目標に対する現在の取り組みを示す活動板を作り、各グループマネージャー席の後ろに掲示することでグループ員と目的及び進捗を共有するとともに可視化し、更にこの進捗をフォローする指導会という場を設けました。特に柏崎・刈羽のようにHE発生率が下げ止まりの状況では、総花的な視点の取組みではHEを減らしていくのは難しく、踏み込んで起きていることの要因を探るために4M4E分析等を行い、その対策は5W1Hを明確にしたアクションプランの展開が有効と考えます。また、日常業務において上手くいっている要因を分析する視点や未然防止の視点も大切です。
◆今後の課題は、マネジメント力、リーダーシップ力の更なる向上が必要で、業務の中で重要な点を明確にして的確にフォローする能力を構築するための教育訓練体系が必要です。また、情報共有のために、所員及び協力企業とネットワーク等を使った活動全体の可視化にも取り組んでいます。
◆最後に、米国から学ぶべきHE防止の取り組みです。INPOは「ヒューマンパフォーマンスでのエクセレンスは根本的な原則(人は過ちを起こすもの等)を人が受け入れた場合に達成されやすい」としています。また米国では、HE防止にツールの活用は必須とされ、2分間ドリル等のツールの使用をマニュアル等で標準化し、ポケットブックを携帯して活用する展開をしています。注目すべきは、各ツールで実体験に基づく失敗例であろう「やってはいけないこと」も明示されている点で日本国内での日常業務の実施や改善に取組む中で参考になる内容を含んでいると思います。また、米国全体に様々なネットワークがあり、情報公開され、社内外で情報も共有した取組みを行っております。
◆日本で取り組むべき課題は、米国での取り組みを日本の実情に合わせて学び、HE防止のプロセスをどのようにルール化し、構築し、経営層から実務者までの認識併せを行うと共に組織内で効果的に活用するために誰がどのような取組みを行っていくかを明確にして、原子力事業者と元請(含む協力企業)が主体となり、多層構造の中で一体化して安全のために活動・運営していくことです。
との話をしました。
続いて、敦賀発電所 運営管理室長 大平 拓様より「敦賀発電所のHE傾向及び最新の処理状況」と題してご講演いただきました。
◆敦賀発電所では、保安規定で要求される安全措置事項を明確化し、各事項に関する管理方法については、QMSに則って社内手続きのルールを規定化しています。ただ、発電所の業務とは、緑化工事や清掃業務など、保安規定に書かれているような業務だけではありません。そういった「一般業務」については、一部QMSに則っている場合もあれば、必ずしもそうではないものもあり、業務のグレードに応じて分けているのが実態です。
◆次に、今年度、敦賀発電所において、4月と5月の間に立て続けに発生した4件のHEについてご紹介します。
(1)プラズマトーチ電源ケーブル接続部付近からの火花確認
(2)貯蔵品の誤った除却
(3)汚染管理区域への作業服装備による立ち入り
(4)教育訓練計画教育連絡書(自治体提出用)の誤記
これらは、現場での変更点の見落とし/報連相の未実施/発注⇔請負間でのコミュニケーション不足/思い込み/ダブルチェックの不備等から発生したHEです。また、現場/事務と、色々な業務分野からHEが発生してきていることも分かると思います。
敦賀発電所ではこれまでもHE撲滅に向けた活動を行ってきましたが、HEはある一定の割合で断続的に発生しています。
◆HEの予兆としてヒヤリハットを解析すると、人的要因、特に心理的要因によって、品質不良/人災に至る事象が発生するケースが多いことが分かります。
HE撲滅のためには、作業前の「ひとりKY(危険予知)」を日常的に行える個人の意識づけが重要です。
◆また、作業者の意識を向上させる観点から、周囲からの作業者に対して問いかけや指摘をすることも非常に重要であり、特に集中工事期間は、現場作業に対する指摘(現場オブザベーション)を重点的に行う必要があります。
とのご講演をいただきました。
●ヒューマンエラー防止のツールとして、日々の反省をチームで行う事が重要であるとの講義に大いに納得しました。今後、業務の中で活用したいと思います。
●敦賀発電所のヒューマンエラー防止活動に活かせるツールが多数ありました。他電力の具体的な事例を紹介頂き、参考になりました。米国の取組みは、特に参考になりました。
●ヒューマンエラー防止のためには、電力と協力会社が一体となった取組みが必要であることが、改善事例により良く理解できました。
●他電力及び敦賀発電所の講演内容から電力のヒューマンエラー防止の検討方法や取組み方法が確認でき、参考になりました。(協力会社)
●ヒューマンエラー防止活動や展開について、具体的事例を基にご説明を頂き、ありがとうございました。大変分かり易く、今後の業務に活かしていこうと思います。
などのご意見・ご感想をいただきました。
安全情報交換会では、午前に行われた講演2件及びJANSIからの情報提供「ヒューマンファクター検討会の活動状況」を基に「ヒューマンエラー低減活動について」をテーマにして意見交換を行いました。参加者は、敦賀発電所の中間管理職の方を中心とした16名とJANSI の6名により、活発な意見交換となりました。
以上