協会情報

電気新聞 時評 ウエーブ「可能性と壁(2)放射性廃棄物」

2019年6月14日
原子力安全推進協会顧問
松浦 祥次郎


令和に年号が代わる寸前4月に開催された第52回原産年次大会では基調テーマを「原子力のポテンシャルを最大限に引き出すには」として、講演やパネル討論で内外の識者や専門家から種々の可能性が期待を込めて指摘された。

しかし我が国原子力産業や研究開発活動の現実を見ると、示された指摘の方向で可能性をしっかり引き出すには、3つの厚く高い壁を克服しなくてはならない。それは放射線障害、高レベル放射性廃棄物処分、そして原子力利用に対する認知的不協和である。本欄4月26日記事では放射線障害に関する壁への挑戦を指摘した。今回は高レベル放射性廃棄物(HLW)を話題としたい。

原子力利用は、その民生利用が始まった1970年以来、批判的な人達から「原子力発電はトイレなきマンション」と椰楡(やゆ)を込めた批判・非難を受け続けてきた。我が国は原子力研究開発利用の選択を決心した当初から「核燃料サイクル利用」を基本方針としてきており、この方針は原子力科学技術の進歩的特性から考えて、現在も超長期の将来にわたっても合理的かつ適切なものと判断される。この方針により、原子力利用の進展とともに核燃料サイクル事業から排出されるHLWの処分は不可欠・不可避である。当然に処分を実現するための努力は早期から継続的かつ集中的に積み重ねられてきた。処分事業実施のための科学的・技術的成果はかなり進歩し、試験的実施が可能な程度までに達しているが、実施に至っていない。理由は極めて明瞭で、実施場所が決定できないことにある。仮に、本邦内に実施が不可能となれば、必然的に我が国は原子力エネルギー利用を断念せざるを得なくなる。いずれにせよ、純国産エネルギー4%の現状を見ると、エネルギー的に独立国には成り得ない覚悟が要る。

では、HLW処分可能地は本邦に無いかといえばそうではない。国が公表した最終処分場選定のための科学的特性マップでは、およそのところ列島を取り巻く海洋から幅約20キロメートルの場所は適地となっている。ここに何カ所かを決定出来れば問題は解決である。

この科学的特性マップを思い浮かべれば、その中に全ての原子力発電所と大型原子力研究開発施設が存在しており、これらの施設のみがHLWの主体である高放射性物質を排出している。ところで、これらの施設サイト付近の地質的構造の確実さは、施設の設置以前に、他のどこよりも精細厳密に調査解析が実施されており、そのことをそこで働く従事者はよく理解しており、また処分されたHLWの安全性は施設運用における安全性に比べて桁外れに高いこともよく理解している。

HLW処分が我が国の原子力政策に必須であるとしても、その議論は科学技術的論理のみでは到底扱い得ない政治的、社会的、経済的、文化的問題となっている。たとえ地元から受容可能性を表明されたとしても、その実現への困難さは、かつての高知県東洋町での混乱が強烈に思い起こされる。HLW処分が明日必要というわけではないが、放置すれば想像より早く我が国の原子力政策は破綻する。処分場決定の議論は早すぎても遅すぎても社会の信頼を得られない。放射性廃棄物について徹底的議論をすべき時である。そのうえで国と地方レベルの全ての選挙をそれら議論の結果を示し合い、決定の機会にすべきと考える。

以上