協会情報

電気新聞 時評 ウエーブ「再生可能エネと電池」

平成31年2月14日
原子力安全推進協会顧問
松浦 祥次郎


2018年7月に閣議決定された第五次エネルギー基本計画での際立った特徴は、再生可能エネルギーを主要エネルギー源と位置付けたことで、今後の展開に大きな期待が寄せられているのは風力発電と太陽光発電である。

風力発電は、発電機の開発は成熟の域に達し、効率化の向上や他の電源との連携・運用上の技術的改善には余地が多くあるように見える。また、地勢的、環境的、気候的条件等から桁外れの規模拡大は望めそうにない。太陽光発電も太陽電池の研究開発の基礎段階は終了し光・電気変換効率の改善が今後の主課題となっている。

風力発電と太陽光発電に大きな期待が残されているのは、風力や太陽光はそのエネルギー密度が低い、時間的に変動が激しいとの共通の欠点があるとはいえ、その量的拡大可能性が大きいことである。しかし、これを他の炭素系発電で補うのでは、主要エネルギーとしての役割と価値が大きく阻害される。この欠陥を決定的に補うことが出来るのは現用の電池より決定的に高い蓄電量の電池、すなわち高い質量エネルギー密度(単位重量当たりのエネルギー蓄積量=Wh/kg単位)の電池の開発可能性に掛かっている。

現用の電池で最高の質量エネルギー密度を誇るのは、最近しばしば話題に上るリチウムイオン電池であり、その密度はほぼ150Wh/kgレベルである。

この電池はモバイル機器には適しているが、数10万kWクラスの風力や太陽光発電の不安定性を定常化するには全く不適である。何よりも電池が高価で経済的に成立し得ない。可能な充放電回数も約3500回で電源安定用には十分でない。また、リチウムは希少資源であり、大規模発電安定用に大量使用は不可能であろう。

現在、現用のリチウムイオン電池を超える高質量エネルギー密度電池の研究開発が急ピッチで進行しており、固体電解質型や空気型電池の可能性が追究されている。もし超高質量エネルギー密度の電池が実現可能なら炭素系発電も原子力も不要となるのであろうか。

しかし、現在の電池は全て化学反応に基づく化学電池であり、その基本反応のエネルギーレベルはいずれもeV(電子ボルト)である。化学反応の空間的サイズは原子、分子、イオンのレベルであり、質量エネルギー蓄積密度はこのサイズによって限界が決定される。現在の研究開発が成功したとしても、化学電池である限り、その最高密度は、現在のリチウムイオン電池の100倍を超えるのは不可能かと考えられる。

ところで、この地球上でエネルギーが最も稠密にかつ安定に蓄積されているのは、あらゆる物体の原子核の内部に核力として潜在させられているものである。

この核力を核分裂反応でかなり自由に安全に利用できるようになったのが原子力である。ちなみに、現用の発電炉で利用されている核燃料の質量エネルギー密度を、普通の使用済み核燃料の燃焼度(約4万5000MWd/ton)から、電池の質量エネルギー密度と比較してみると、約1億Wh/kgとなる。現用の電池が究極まで進歩しても核燃料に安定に蓄積されている値とは比べようもない。

再生可能エネルギーと原子力エネルギーのバランスよい組み合わせを、将来の人類のために確り考え直し、社会の理解と信頼を得る努力をすべきと考える。

以上