協会情報

電気新聞 時評 ウエーブ「プルトニウム保有量削減」

平成30年10月18日
原子力安全推進協会顧問
松浦 祥次郎


既に報道された通り、現行の日米原子力協定の期限が7月16日に発効後30年の満期になり、自動延長された。今後は日米どちらかの通告後6カ月で現行協定は失効することになる。この取り決めはひどく不安定な状態とも映るであろう。事実、そのような指摘がなされてもいる。しかし、世界現今の国際関係に即した常識で判断すれば、この協定を失効させることによる両国の損益は極めて明らかであり、自動延長状態はかなり安定的に継続するものと考えられる。

とはいえ、本協定は国際核燃料サイクル評価(INFCE=1977~79年)の結論を基盤として日米関係者の汗と知恵を練り上げて両国間に締結された極めて重要な協定である。これは核燃料サイクルの完結を目指す我が国の原子力平和利用計画の実施が国際的に受容される強固な枠組みを構築しているともいえる。それだけに関連する困難な課題も多い。それらに関する重要事項については事情を知悉する宮崎慶次、金子熊夫、中村政雄の諸氏がこの時評欄(7月30日、8月1日、同30日記事)に既に指摘しておられる。

その指摘に共通している事項は、それぞれに視点は異なるがプルトニウムの問題である。中心的事項は、我が国の分離済みプルトニウム保有量が予想よりかなり多くなっており、さらにそれが増加するのは核拡散の懸念につながるとの指摘が諸方面からなされていることである。

このようになった主因は、プルトニウムを大量に必要とすると予測されていた我が国の高速炉開発とその展開が予定通りに進展せず、また補完的に進めた商用軽水炉でのプルトニウム利用も福島第一原子力発電所事故を含め種々の不都合で計画通りに実施できていないという事情のためである。

このような事情は核燃料サイクル計画を完結させようとしてきた他の先行国でも同様の状況にある。しかしもっぱら平和利用に徹して核燃料サイクル完結を目指す我が国としては、蓄積された分離済みプルトニウムについて何らかの具体的かつ現実的な削減策を示し、実施し、かつ説明する国際的責任があるのではないか。

筆者は約40年前INFCEに関わった頃から「何事も過剰は不安定、不協和をもたらす。プルトニウムについても増殖と削減の平衡をとる技術的手段が準備されるべきであろう」と考えていた。やがて1990年代の中頃、周辺の研究者仲間にプルトニウム専焼型燃料の開発の必要性と、基本的概念を提案した。基本概念の元は、高レベル廃棄物処分のために開発されたシンロック材料(人口岩石)であった。この材料中に酸化プルトニウのみを適量混合し岩石型燃料として軽水炉心の周辺に装荷してもっぱらプルトニウムを消費するとの考え方である。この案は、旧原研の研究者によって基礎研究がかなり進められ、2000年頃には「混合成分を調整した岩石型燃料の特性は混合酸化物燃料とほぼ同等であり、プルトニウム燃焼効率は約2倍になる」との事実が実験的及び理論的に結論づけられている。この岩石燃料はそのまま最終処分が可能であり、或は放射線強度が減衰するまでは工業的な放射線源にも使用可能であろう。

今更の古証文の提示のようでもあるが、今後の国際的原子力利用展開における不整合・不協和解消のためには過去の成果で「お倉入り」になっているアイデアも総動員することを考える必要がある。

以上