協会情報

電気新聞「時評」 全ての根幹にエネルギー

平成30年1月5日
原子力安全推進協会理事長
松浦 祥次郎


電気新聞創刊110周年記念事業に「110年後の世界史――エネルギー・環境の視点から」をテーマとして記念論文が募集され、最優秀作品は「2127年からの警鐘」(寺田高久氏)が選ばれた。この作品中に「あらゆるものの根幹にあるのはエネルギーです」との文章があり、これが作者の基本的理念と思われる。この理念の科学的妥当性は、約137億年前に生起したとされるビッグバン以来の宇宙創成と発展の経緯を描く観測と実験で説明される。

ビッグバンの起点には電磁波も素粒子さえ存在できないほどの高エネルギー・高密度の極微宇宙と空間、時間が、そしてその外部に真空空間が同時に生起したと考えられている。外部真空のエネルギーによって極微宇宙は超スピードで膨張した。ビッグバンである。

膨張とともに宇宙は急速に冷却され、それとともにエネルギーが多数の素粒子(質量・電荷)や電磁波に転換されていった。同時に重力場、電磁場も宇宙の膨張とともに拡大していった。宇宙の冷却に伴い素粒子が結合して原子核の構成要素となる核子(中間子、陽子、中性子)が生まれた。これら核子が結合し現世界の構成要素となる元素の原子核が多種構成されていった。やがてこれらが電子と結合しそれぞれの元素の原子が誕生するようになった。これで現世界が出来上がる準備ができた。

無数の原子が集合して出来上がった地球のような星では、様々な元素の原子が電子を介して結合し分子を構成した。さらに多種の分子による結合が物質代謝・エネルギー代謝を自動的に継続する生物を誕生させるまでになった。その突端に人類が存在している。

この経過で重要なことは、宇宙の膨張も、素粒子や原子核の結合・離散による変化もすべてはエネルギーの在り様によってなされているということである。まさに、あらゆるものの根拠にエネルギーがあり、エネルギーによって成り立ち進められている。しかし、エネルギーそのものを普通の事物のように「これがエネルギーだ」と取り出して示すことはできない。エネルギーはそれが関与する事物の動きや電場・磁場の位置に、そしてその事物の構造の中に潜在している。

例えばウランの原子核を構成する構造の中に核力として核エネルギーは蓄積されており、核反応でそのエネルギーを熱エネルギーに転換して利用している。一方、石油を構成する炭化水素分子類の構造には化学的エネルギーが蓄積されており、酸化反応(燃焼)でそのエネルギーを利用している。いずれも電気エネルギーとしての利用がもっとも便利である。

双方での反応の極端な違いは反応ごとの発生エネルギー量にある。例えば100万キロワット年のエネルギーを得るのに低濃縮ウランでは21トンであるが、石油では約155万トンが必要だ。この根源は核構造と分子構造が蓄積できるエネルギー密度の極端な差異にある。

電気エネルギー(電子の流れ)は便利であるが電子を直接に大量かつ高密度に蓄積することは不可能である。電池が超先端的に開発されたとしても、分子構造による限り、核構造によるエネルギー密度レベルの代替はできない。我が国は太平洋からウランをほぼ無尽蔵に採集できる。現代文明発展の恵みを得て、エネルギー無資源国から、エネルギー独立国になり得る選択を110年後の子孫のために維持すべきではないか。

以上