協会情報

電気新聞「時評」 オンカロのトラウマ

平成25年11月28日
原子力安全推進協会代表
松浦 祥次郎


フィンランドの人達は原子力発電を、これからもかなりの期間にわたって利用するために、オンカロに、発電炉からの使用済み燃料処分施設を設けた。彼の国の人達は、そこを見学に来た日本の元首相が帰国後「日本ではオンカロ型処分施設は建設できない。原発は継続出来ない。即刻全廃すべきだ」と大キャンペーンを始めたのにはさぞ驚いたことであろう。

先日、即時原発廃止を唱導する元首相をテレビ画面で拝見した。その風貌はまるでクルセードやジハードを獅子吼する説教者を彷彿させるかのようであった。しかし、いうまでもなく原子力は我が国の重要なエネルギーであり、相当に複雑な要因を含む課題でもある。それを、決心次第で極めて簡単に解決できるかのようにワンフレーズで人心を掌握し、ケリをつけようとするやり方は危険この上ない。

何よりも困惑するのは、オンカロの処分場を見て、使用済燃料の処分はそのような方法しかないと、あたかもトラウマにとりつかれた様にさえ見えることである。

フィンランドはその国情に合わせて処分方法を決定した。我が国もその将来をも含んだ我が国の国情、すなわち人口、生活レベル、風土、エネルギー必要量と資源確保可能性、産業レベル、国際環境、科学技術力等々に基づいて処分方法を選ぶ必要があるが、島国で、大人口を擁し、生活レベルが高く、高度の産業を営む我が国では、超長期の視点で選択できる基幹的エネルギーの選択はかなり限られたものになる。

化石燃料は地球的規模で資源量の限界が指摘されており、かつ地球温暖化のリスクを避けるため使用の抑制に努力せざるを得ない。

また、社会的好感度の高い太陽光や風力は、そのエネルギー密度の低さと不安定さのため基幹エネルギーとして信頼出来ない。たとえば、江戸時代の天明の飢饉の元凶となった長雨は3月に始まり8月まで続いたと記録されている。このような天候異変は何十年に一度か、少なくても2、3百年に何度か起こった記録があり、今後とも異変が発生する可能性は高い。

だとすれば、福島原発事故を心に強く銘記しつつ、安全確保を向上させながら原子力を継続的に利用する選択をせざるを得ない。我々の先人がこのような選択をしたのは基本的に間違っていなかったと考えるが、具体的手段は科学技術の進歩に応じて向上させていかなくてはならない。

さて、今後の最大かつ最難題の使用済核燃料と高レベル放射性廃棄物の処分問題である。我が国は原子力を将来の基幹的エネルギーとして選択した当初から、使用済燃料を再処理し、生成したプルトニウムとウランは再利用し、高レベル放射性廃棄物は深地層処分するとの施策を決定している。問題となっているのは、この高レベル廃棄物に半減期が数万年を超える核種が存在することである。たとえ科学的・工学的に長期の安全な処分が可能と評価できても、一般の理解を得ることが困難なことに問題がある。

一方で、高レベル廃棄物に含まれる長半減期放射性物質を分離抽出し、それを高速炉または加速器を用いて数十年程度の半減期の核種に転換する技術についての基礎的研究は、かなり以前から進められてきている。最近、文部科学省の科学技術・学術審議会分科会の検討により、この可能性を確認する工学的試験研究を実施することが妥当との結論が得られている。

この研究が完成すれば、高レベル廃棄物処分の負担が決定的に軽減されるだけでなく、高レベル放射性物質を、放射線源や熱源として利用する道も拓かれる。オンカロのトラウマに囚われ慌てて原発廃止の愚を選ばず、落ち着いて確実な研究開発で新しい道を開拓したいものである。

以上