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電気新聞「時評」フィルターベントは必要か

平成25年11月12日
元日本原子力技術協会最高顧問
石川 迪夫


福島事故の放射線量率の図を眺めていて、フィルターベントが必要なのか、ふと疑問が湧いた。

図が示せないのが辛いが、発電所正門での線量率(毎時)は、事故翌朝の12日4時頃に約4μSvに急上昇し、3日ほどその値を保ったのち、14日深夜に約300μSvに再上昇している。

最初の線量上昇は、1号機の爆発時刻から見ても、ベントの記録からいっても、1号機から出た放射能であることに間違いはない。

2回目の上昇は2号機からのもので、時刻的にも、格納容器の圧力変化からも証明できる。線量率が高いのは、ベントの失敗によって、溶融炉心の放射能が格納容器から直接漏れ出たからである。

少し説明しておくと、事故後の線量率はスパイク状の上昇を、度々繰り返している。これらはベントの開放や爆発毎に現れ、最大1000μSv近くまで上昇するが、直ぐに元の4μSvほどの背景線量率に戻っている。

敷衍すれば、スパイク状に出た放射能量は僅かで、背景全体の線量率に影響を与えていない。となると、背景線量率に影響を及ぼした大量の放射能放出は、一回目の4μSvと二回目の300μSvの、二回ということとなる。

両者を比較すると、2回目の放出が圧倒的に大きい。この差をベントの有無と考えるのは常識だ。ベントを通る放射能は、格納容器底にある水溜りを潜る間に洗われて、濃度が薄まるからだ。

従って、二つの線量率を比較すると、ベントによる放射能の除去効果が出てくる。300μSvと4μSvの比だから、除染効果は75となる。これは、ガスを格納容器の水に潜らせたことで、放射能濃度が75分の1に減ったという事実を示している。

これは大きな除染効果だ。繰り言になるが、もし2号機のベントが開いてれば、背景線量率は約4μSvに止まったに違いない。この線量率はICRPの避難勧告の下限、年間20ミリSvに近い。

この様に雑駁に考えていたのだが、誤りに気付いた。1回目の線量上昇時刻4時は、1号機のベント実施時刻9時よりも5時間も前だから、この上昇はベントと無関係だ。更に考えると、3号機のベントで放出量が倍増したのに、4μSvの線量率が変わらないのも変だ。犯人はベントではない。

調べ直したところ、同時刻に原子炉に直結する配管に消防車を繋ぐ作業があり、線量率上昇によって作業を一時中断したことが、東電報告書に記載されている。時刻的に見て、これが疑わしい。

消防ホースの繋ぎ目は気体を密封できない。専門的だが、注水による溶融炉心からの水素発生も考えられる。消防車の注水作業に伴い、放射能が建屋から直接漏えいしたと推定される。最初の上昇は微量ではあるものの、1号機建屋からの直接漏洩なのだ。

とすれば、格納容器水溜まりの除染効果は更に大きくなる。ベントの放射能量は、直接漏洩量より更に微量でなければならず、その10分の1程度でないと、線量率が一定であった事実が説明できなくなる。これを当てはめれば、除染係数は750にもなる。

以上の検討が正しいとすれば、ベントさえ開いていれば、事故時の線量率は年間2ミリSvほどに治まり、避難は無用となる。

論より証拠だ。BWRグループは格納容器の除染効果を実験で確かめることだ。既設設備の安全性能の確証のためだ。実れば、フィルターベントは必要なくなる。余分な装置は安全上有害だ。

加えて、緊急時の手順書も改めることだ。格納容器隔離と同時にベントを開けば、炉心溶融が起きても放射能は水に洗われ外に出ない。線量率も低い。官邸にベントの許可を求める愚も無用となる。

本案の検討実施を、BWRグループに強く要望する。

以上