協会情報

電気新聞「時評」原子力の新しい風

平成25年9月5日
元日本原子力技術協会最高顧問
石川 迪夫


原電敦賀発電所二号機の真下を走るD-1破砕帯問題、活断層か破砕帯かの判断で、規制委員会と原電の見解が対立している。
  
対立に至ったのは、規制委員会が独自に作った有識者会合が、僅か二日の現地調査で「D-1破砕帯は活断層」であり、「浦底断層と同時に動いて直上の施設に重要な影響を及ぼす可能性有り」とした評価書を、今年5月了承したことに発する。

原電はこの結論に納得できず、実施中の調査結果を待つよう要請したが、認められなかった。だが、この6月末終了した膨大な掘削調査で「活断層でない」との結論が出たという。外国人専門家も加わっての調査という。

原電によれば、D-1破砕帯上の地層は整然と堆積して乱れがなく、活断層判定の目安とされる12~13万年以前の火山灰に覆われているという。また、浦底断層との連動が疑われたK断層は途中で消滅し、原子炉建屋方向には延びていない事が確かめられたという。原電はこの結果を報告書にまとめ再審査を要請した。

門外漢の僕には技術的な是非は判断できないが、再調査結果を聞くかぎり、原電の主張はすっきりとして分かり易い。

一般的に、すっきりと分かり易いものは信用できる。学会発表でも難解な説明ほど中身が怪しい。突っつくとぼろが出ることが多い。これは機械でも同じで、機構の複雑なプロペラ機は、構造の簡易なジェット旅客機と較べて、その信頼度は大幅に落ちる。

規制委員会の判断理由は、報道されていないので知り得ないが、手続きや判断プロセスに問題があったのか、評判は悪い。科学的判断を標榜する委員会だ、自省して再審査に臨んで欲しい。

規制委員会にアドバイスするとすれば、申請者をパートナーとして信用することだ。この10年、米国の原発稼働率が90%を越えたのは、NRCによる事業者を信じた安全規制に負うことは、世界の原子力界の周知の事実だ。

警察と原子力規制との違いは、前者は治安を乱す者への取締りに有るが、後者の相手は極めて複雑な巨大技術だ。その安全確保には、技術を熟知する事業者と信頼関係を築く以外にはない。

国会事故調は原子力安全保安院を「電力の虜」と誹謗したが、僕の目には「規制の奴隷」であった電力の姿も見える。両者の関係を一口で表現すれば、百年に渡る電力の官僚依存だ。この改善が巨大技術の原子力には必要なのだ。

その意味で、僕は規制委員会の決定に逆らって、異議申立てした原電の姿勢を高く評価する。僕の知るかぎり、国の決定に電力が反抗したのは初めての事だ。この勇気に声援を送りたい。「原子力企業はかく有るべしと」。

断っておくが、僕は喧嘩をけし掛けているのではない。時代が変わったことを認識せよと言うのだ。今はインターネットの時代、料亭での相談は急速に広まる。旧弊の官僚依存体質では何も進まない。それは時代の成せる仕業だ。

官僚と対等の立場で、怖めず臆せず、不合理には反抗し、主張すべきは主張する。これが正常な官民の関係だ。原電はその嚆矢を放った。後に続くを信ず、だ。 

原電の反抗に合わせた連舞を、規制委員会が見せるか否かで明日の規制が決まる。百年の依存体質を変えるのは電力だけではない。

原電の勇気に触発されてか、原子力の必要性と安全の実情とを率直に国民に伝え、形式的で無駄な安全規制を改め、福島の復興協力と日本の発展に役立てようという運動が若い原子力関係者の中から動き始めている。

それは原子力企業の企画ではなく、現状に危機意識を持つ若者達が小遣いを出し合う救国運動だ。この秋には旗揚げの予定と言う。無論、僕は参加する。

以上