協会情報

会長挨拶

会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア はじめに、2024年1月1日に発生した能登半島地震への対応にあたられた北陸電力の皆様の大変な努力を、心から称えたいと思います。地震に関連して起きたことから学ぶべきものは多く、特に北陸電力の方々の献身的な対応には、私たち誰もが大変触発されるところです。

日本では、2024年5月時点で6発電所12基の原子炉が供用を再開しており、発電所の稼働水準を測定する指標では世界レベルの安全性と信頼性のもと運転されています。また、安全性向上の工事を終え、運転に向けた最終的な許可を得ているプラントもあり、この中には2011年の福島第一原子力発電所の事故後初めて運転の再開が見込まれる沸騰水型の原子炉もあります。更に、運転再開の許可を得るために、安全性検討や改造工事に取り組んでいる発電所もあります。青森県六ケ所の再処理施設は工事が完了しつつあり、運転開始に向けた最終的な許可を規制当局から受けるための準備を進めています。これらに対して、産業界としても、運転に向けて十分確実な準備が行えるよう情報共有、ベンチマーキング、現場サイトでのレビュー等の支援を行っています。JANSIの成果は、日本の原子力事業者のこうした安全性実績で測られるのです。

2019年3月、JANSIの理事会は、最初となる10年戦略を承認しました。この戦略は、具体的なマイルストーンと方策を達成するために重要な方向性と産業界との連携を定めています。そして、その後の5年間で多くの変化がありました。JANSIは、その初期の段階を経て、確立されたプロセスで業務を行う成熟した組織へと移行し、また事業者のパフォーマンスも、世界のパフォーマンス基準をより強く意識しつつ着実に向上しています。グリーン・トランスフォーメーションやエネルギー供給確保の重要性の高まり、予想をはるかに超えた電力需要の伸びなど外部環境の新たな変化も現れています。前回のご挨拶でも申し上げましたが、最初の10年戦略が承認されてからの直近の5年間における大きな変化に対応するため、JANSIはその戦略的な見直しに着手し、自らの業務、活動が現在の事業者にとってベストなものになっているかという観点から評価を実施しました。

そして、事業者とステークホルダーの幅広いご参加をいただき、2023年度にこの10年戦略の抜本的な見直しを行い、2024年3月に理事会で新戦略が承認されました。新10年戦略は、引き続き原子力安全に専心するとともに、原子力の地球温暖化防止への中心的な役割を認識し、発電所の信頼性にも考慮しています。また、発電所及び本店の幹部が発電所のパフォーマンスの劣化の兆候を早期に発見し対応できるよう、またJANSIがその資源を最も注意が必要な分野に充てることができるよう、継続的なパフォーマンス・モニタリングの枠組みを確立する道筋を定めています。新戦略では、パフォーマンスを自ら批判的に認識し、高い基準を守り、日々継続的な向上を目指す価値観をもった原子力リーダーの育成にも一層力を入れています。この戦略を支えるのは、福島第一原子力発電所の事故を決して忘れないという基本姿勢の継続です。

新たな10年戦略を基に、2024年度のJANSIは、3つの重点活動に取り組みます。最初は、高い品質のピアレビューを継続することです。これにはWANOの同等性を行使したピアレビューの実施も含まれます。二番目は、発電所のパフォーマンスの継続的な向上とパフォーマンスのモニタリングです。WANOの強化型パフォーマンスモニタリング(ePM)を中心的な要素としつつ、JANSIは、日本の事業者に最適な仕組みと分析方法を確立します。三番目は、長期停止後に運転を開始する発電所の支援と状況の把握です。稼働を再開した発電所のスタッフの運転技量には特に一層の注意を払ってまいります。また、重点活動以外の全ての業務も継続して向上を図ります。事業者の原子力業務を支える組織の有効性、本店の活動にも注意を向けてまいります。健全な安全文化を育成するためにはリーダーシップが重要であることを認識し、新たなリーダーシップ研修の開発や質的向上にも取り組みます。また、ATENA、NRRC、WANO等の関係機関とも、原子力産業界に効率的、効果的に貢献できるよう連携してまいります。

日本の原子力産業界は、継続的なパフォーマンス改善に強い意欲をもって取り組んでいます。原子力事業者が大きな課題に直面していることは認識していますが、エクセレンスへの集中的なコミットメントとリーダーたちの健全な安全文化育成の努力には大変勇気づけられます。JANSIは、そのモットーである「エクセレンスは足元から」を実践し、安全性のパフォーマンスの更なる高みを目指してまいります。

一般社団法人 原子力安全推進協会
会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア