2022年6月現在、日本国内で稼働中の原子力発電所は、世界レベルの安全性及び信頼性水準を引き続き維持しており、そのプラント性能は、あらかじめ策定された既存の指標によって測定、評価されています。更に、他のいくつかの発電所は、原子力規制委員会の審査を経て設備の安全性を向上させ、近い将来における運転開始に向けた準備を行っています。それ以外の発電所の一部でも、原子力規制委員会の審査対応のため集中的に業務を続けています。日本原燃でも、再処理施設のしゅん工前準備を行うにあたり、その運転部門で世界最高水準の安全性基準(エクセレンス)が採用されています。JANSIの事業活動は、最終的には、全会員の原子力施設における安全で信頼性の高い運転実績によって常に評価されています。
JANSIの長期戦略「10年戦略」は、着実に進展しています。JANSIは、原子力施設に対するピアレビュー、パフォーマンスモニタリング及びコンティニュアスモニタリングの実行可能性調査、また日本原燃再処理施設のしゅん工前支援及び停止中プラントの再稼働準備支援という重点分野において成果をあげてきました。加えて、組織の安全文化を評価する能力を向上させ、原子力安全に関する幅広いトピックスに関する世界レベルの研修セミナーやコースを会員に提供するとともに、安全性向上に向けた会員への提言と深層防護レビューに関する会員の活動のモニタリングを継続的に実施しています。事業者からの要請に基づいて、安全文化セルフアセスメントへの支援も行いました。2021年10月には、産業界における激しい変化の状況を評価して、「10年戦略」の見直しを行っています。その結果、「戦略」は引き続き健全であると判断されたため、微調整のみにとどめました。2021年7月には、組織機能の改編を実施し、社内の連携と「戦略」との整合性が改善されました。更に、新しい職場環境により、JANSIの職員は、JANSIが産業界に対する責務を最も効率的に果たすことができる環境で、それぞれの業務を行うことが可能になりました。私は、JANSIの職員一人ひとりの職務パフォーマンスに誇りを持っています。
2023年は、日本の原子力事業者とJANSIにとって、自主規制のための持続可能な原子力安全の枠組みを強化する上での転換点となります。JANSIは、WANOと協力して、WANOのAction for Excellence計画と一致するように、ピアレビュープログラムにおけるWANOとの「同等性」を取得することを目指して、これまであらゆる努力を払ってきました。この「同等性」は、JANSIのピアレビュープロセスとパフォーマンス基準が、ピアレビュー品質の世界最高水準を満たすか、あるいは上回ることを保証します。更に、JANSIは、日本の事業者と協力して、WANOのより強力なパフォーマンスモニタリング(ePM)プログラムを中核として、パフォーマンスモニタリング及びコンティニュアスモニタリングプログラムの実施を開始しますが、それにあたっては、既に事業者間で実施されているプロセスやプログラムに合わせて、日本の事業者向けにモニタリングプログラムのカスタマイズを行います。今後は、日本の事業者向けにカスタマイズされたこの安全に関する枠組みにより、事業者は、安全性に関するパフォーマンスを効果的かつ効率的にモニタリングし、貴重なリソースを最も必要な分野に充てることができるようになります。
安全性に関するパフォーマンスの基盤は、これは先述の枠組みにとっても重要なものですが、世界最高水準のエクセレンスを追求していく中で、自己を修正し、かつ経験を踏まえたエクセレンスのより一層の進化を継続的に学習していく産業界全体の文化です。これらの基本的な価値観は、産業界のリーダーたちが、産業界全体で継続的な改善と学習が行われる職場環境を醸成するために模範とする道標です。原子力に携わる者は、毎日の業務を遂行するにあたり、これらの価値観を実際の業務において目に見える形にする必要があります。JANSIでは、まさにそれが基本となる価値観であり、産業界の成功の中核を成すものとして受け入れているものです。
JANSIで毎年開催しているアニュアルカンファレンスでもお伝えしているように、JANSIは、福島第一原子力発電所事故の教訓を時間の経過とともに風化させないため、重要な役割を果たしています。ご承知のように、2011年3月に発生したこの事故については、これまで多くの調査と研究が行われてきました。2021年、JANSIは、これらの複数の報告書から抽出した多くの教訓を一つの文書にまとめました。「福島第一事故の教訓集」と題したこの文書は、事故の教訓が容易に参照できるように構成されています。この詳細な文書を作成してくださった方々のご尽力に感謝いたします。
2022年の会長挨拶を締めくくるにあたり、現在世界が直面している困難な課題について振り返ります。新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の深刻さは軽減されていますが、今なおパンデミックは継続しており不断の警戒が必要とされています。ウクライナでの悲劇的な戦争は、私たちの社会的な厚生と経済的な健全性を保証するためには、エネルギー安全保障が決定的に重要であることを浮き彫りにしました。また、炭素排出量削減の重要性も、世界的な緊急課題として存在し続けています。これらの世界規模での影響要因はそれぞれ、私たちに、エネルギーをどのように生産、貯蔵、使用すべきかについて細心の注意を払うよう喚起しました。今日、原子力は、経済的繁栄、エネルギー安全保障、そして環境保全に貢献しうる信頼性の高いエネルギー形態としてますます認識されています。しかし、原子力に関する全ての議論は、国民からの支持と原子力安全のエクセレンスの追求から始まります。産業界に対する国民の信頼は、安全性のエクセレンスが私たちの目標であるだけでなく、私たちの「生き方」となっている場合にのみ獲得できるものです。JANSIに籍を置く原子力従事者として、これこそが心から受け入れるべき「生き方」なのです。
一般社団法人 原子力安全推進協会
会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア