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会長挨拶

会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア 2025年度の年次のご挨拶を申し上げます。日本国内の原子力産業界の現状とJANSIの取組みを振り返り、原子力事業者の課題や影響を与える要因と今後の展望について私の考えを述べさせていただきます。

2025年6月時点で、国内では8原子力発電所の14基が運転されています。特に2024年度は、女川2号機と島根2号機という沸騰水型原子炉(BWR)2基が長期停止を終えて再稼働しました。2011年の福島第一原子力発電所事故後初めてのBWRの再稼働となります。女川原子力発電所は、東日本大震災の震源に最も近い発電所です。東北電力および中国電力の関係者の皆さまの原子力安全への揺るぎないご努力に敬意を表します。また、安全な再稼働に役立てるために先行プラントでの教訓がこれら二つの発電所に対して提供されるなど、原子力事業者からの幾多の支援も称えたいと思います。これら2基の再稼働に加えて、他の12基も、国際基準に照らして高いレベルの安全性と信頼性のもと運転されています。さらに、国内の他の原子力発電所でも、安全性向上対策工事の実施や再稼働のための一般社会の信頼回復などに尽力されています。

2024年度は、JANSIの新たな10年戦略がスタートした年でした。私たちは、既にWANOのピアレビューを国内において年に一回程度代行していますが、それらとJANSIのピアレビュー双方の質的向上に引き続き努めるとともに、原子力発電所の継続的なパフォーマンス・モニタリング(PM・CM)を実施し改善を続けること、また、BWRプラントの再稼働の支援に従来どおり注力することなどに活動の重点を置いてきました。それぞれの重点活動は、着実に進捗しています。さらに、他の全ての戦略分野においても、原子力産業界への支援を進めてきました。アニュアル・カンファレンスでは、教育、訓練、プロフィシェンシー(Proficiency)の個人や職場のチーム、原子力産業界のリーダーにおける重要性が議論され強調されました。プロフィシェンシーとは、力量(知識・技能)を身に付け、現場の状況から課題を特定し、適切に対処する総合的な能力であり、例えば、今実施しようとしている作業に対して、過去に経験したり学んだりした時とは異なる状況下でも、課題を特定し適切に対応できる能力を意味します。こうした能力の状態を、個人、チーム、リーダー、組織において自覚していることが重要です。原子力産業界全体の知識やスキルを高めることは、原子力発電所の高いパフォーマンスの維持に不可欠です。現在の国内の原子力産業界は、世代交代とともに長期停止後の原子炉の再稼働というプロフィシェンシーに関わる課題を抱えています。まさに、知識、スキル、プロフィシェンシーが不断に最新のものになっているかが、作業員にも管理者にも問われています。訓練とプロフィシェンシーの確保により一層取り組むことが、常に安全で信頼性のある運転の基礎となるのです。

2025年度における重点活動を展望しますと、ピアレビューについては、WANOとの同等性の更新手続きを進めつつその有効性もさらに高めていきます。また、原子力発電所のパフォーマンスをモニタリングし継続的な改善につなげる活動は、発電所と本社のパフォーマンス両方にわたる幅広いモニタリングの枠組みへの統合を進めます。加えて、原子力産業界全体のパフォーマンスの傾向に注目し、国際水準に達しない分野があれば対応策を講じます。ここでまず取り組むことは、原子力事業者の協力会社の労働安全とその集団被ばく線量の低減です。これらの問題には原子力発電所における安全性向上のための大規模な対策工事の影響がありますが、工事が終了すれば次は再稼働に移行します。JANSIは、これらの分野における諸問題のより良い把握および検討と、高いパフォーマンスを維持するための改善策の実施を目的として、2つの検討会を設置しました。また、既に述べましたように、教育、訓練、プロフィシェンシーについても検討し方策を実施します。JANSIでは、お互いに毎日何かを教えかつ学ぶことが組織文化の一部であると考えられています。

現代社会は、安全で信頼性のあるエネルギーが確保されることによって成り立っています。環境負荷が少なく、安定的かつ信頼性があり、問題への対処力も高い原子力の重要性は、従来に増して明らかになっています。これは第7次エネルギー基本計画でも示され、さらに原子力を利用していくことが必要とされています。海外でも原子力の重要性が認識され、既存の原子炉の運転延長や出力増強、停止プラントの再稼働、小型モジュール炉や新型炉の開発、大型炉の建設が進められています。原子力に対する熱意の高まりに応じて、「世界最高水準の安全性~エクセレンス~の追求」というJANSIの使命の重要性も増しています。国の政策や支援は重要であり原子力産業界の発展につながりますが、最終的には、原子力事業者によるこのエクセレンス追求への揺るぎない努力こそが原子力安全を達成するカギとなります。JANSIは、このエクセレンス追求に向けて原子力事業者を牽引するとともに、WANO、ATENA、NRRCその他エクセレンスを追求する同じ意志をもった関係機関とも協力していきます。国内外の原子力産業界の皆さまが原子力安全を維持、向上するための基準策定、活動推進にご支援、ご参加くださっていることに感謝申し上げます。

JANSIには、10年戦略に定めた明確な方向性があります。この方向性のもと、原子力産業界の経営層の皆さまには多大なるご支援をいただくとともに、特にJANSI理事会を構成する原子力事業者幹部、あるいは発電所幹部の皆さまには、原子力発電所のパフォーマンスを継続的に改善するための有効な手段として、JANSIを積極的に活用していただいています。JANSI職員は、こうした原子力産業界からの負託を肝に銘じ、「エクセレンスは足元から」というモットーに従い、これからも自らを研鑽してまいります。

一般社団法人 原子力安全推進協会
会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア