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福島の実状に即した被ばく線量評価手法による簡易修復地等の事例解析(要旨)

原子力安全推進協会は、福島の放射能汚染地に適用できる有効な環境修復技術を提案し、福島の復旧に貢献することを目的として、平成23年度に学識経験者や専門技術者からなる「福島環境修復有識者検討委員会」を設置し、海外及び国内で実績のある環境修復技術について、福島への適用性の観点から調査・検討を行ってきました。

今回は、これらの調査・検討成果の内、平成25年度に実施した「福島の実状に即した被ばく線量評価手法による事例解析」の成果を紹介します。

これまでの調査検討によって、福島への適用性の高い環境修復法として、比較的汚染度合の低い地域においては、天地返し(汚染土壌表面をその下層の非汚染土壌で覆う方法)、反転耕、深耕、掘削除去及び現地保管、覆土施工などの環境修復法が、合理的で迅速な除染が可能な修復法であることがわかりました。しかし、これらの簡易な環境修復法を採用する場合は、修復後にその地域で生活される住民の方々の予想追加被ばく線量が自然放射線によるものと同程度かそれ以下のレベル内に収まることを確認しておく必要があります。

この被ばく線量を評価する有効な方法としては、低レベル放射性廃棄物の処分分野で用いられている安全評価手法が有効であります。この手法を用いて福島の簡易修復地や汚染土の現場保管地を想定した評価モデルを作り、文献調査等で得られる情報をもとに評価パラメータ(計算式に入力する数値。例えば降雨量等。)を設定し、さまざまに条件を変えて事例解析を行いました。その結果、以下に述べるようなことがわかりました。

それぞれの修復法の被ばく線量低減効果を比較すると天地返しが最も大きく、次いで反転耕、深耕の順となりました。また、修復地において比較的大きな被ばくをもたらす被ばくシナリオについては、居住シナリオで計算した居住者の被ばく線量が最も大きく、特に外部被ばく線量が大きな割合を占めることがわかりました。また、修復地が農家の場合、農耕作業による外部被ばくに加え、土壌粉塵の吸引や自家生産農畜産物の摂取による内部被ばくなどが僅かながら追加被ばく線量を増加させる可能性があることがわかりました。したがって、修復地の下層に残る汚染土の放射性セシウム濃度が通常レベルの場合は心配ありませんが、かなり濃度の高いものを埋設していることが明らかな場合は、農耕作業時間や自家農産物の摂取にはある程度の配慮を行うことが望ましいと思われます。
一方、周辺地域における地下水利用シナリオや河川水利用シナリオによる被ばくは非常に小さく、無視できるレベルでした。これは、放射性セシウムの土壌・岩体への収着性が強く、地下水に運ばれて移動する速度が非常に遅いため、離れた地点における地下水中の濃度は、希釈、拡散、放射性セシウムの物理的減衰により大幅に低下するためであることがわかりました。
これらのことから、修復地において居住者の方々の被ばく線量を評価する場合、その方々の生活様式に沿った被ばく経路の組み合わせで評価する必要があり、その場合は、あえて保守的な条件、すなわち被ばく線量を大き目に見積もるような条件を設定しておくことが重要です。例えば、今回の事例解析では、事故発生直後に空間線量率が3mSv/y程度であった場所を天地返しや反転耕などによって修復した修復地に居住し、その修復地で農耕を行い、日常摂取する農作物全量の半分は、その修復地で収穫された農作物でまかなう人の場合の被ばく線量を評価しましたが、その結果は、天地返しを採用した修復地の場合、0.04mSv/yの被ばく線量で、反転耕修復地の場合では、0.28mSv/yの被ばく線量になり、いずれも自然放射線による被ばくを十分下回る結果となりました。
この事例解析の結果から、天地返しなどの簡易修復地における被ばく線量は、ほとんどのケースにおいて、自然放射線による被ばくと同レベルかあるいは相当に低いレベルに維持できることが予見されました。また、元の汚染土壌の放射能レベルがかなり高い農地などに対して地表部に汚染土が残る反転耕などの修復法を採用した簡易修復地において、その農地内に居住し、修復地直上で長時間の農耕作業を継続し、自家生産農作物の多くを摂取するなどの悪い条件が重なる場合は、追加被ばく線量が僅かながら増加する可能性がありますので、念のため個人線量計による外部被ばく線量の管理や自家生産農作物の放射能検査などの配慮をすることが望ましいでしょう。
以上①~④で述べた事例解析による知見から、今回の計算で使用した文献データ等による評価パラメータに関する限りとしていえることではありますが、かなり安全側に見た厳しい条件を設定した場合においても、修復地に居住する人の被ばく線量は、1mSv/yを下回る結果となっていることから、地下に低濃度の汚染土壌が存在する環境条件、つまり天地返しをした修復地や覆土施工した修復地、あるいは汚染土の地下保管場所に近接する地域などにおける追加被ばく線量は、自然放射線による被ばくと同程度かそれを下回るレベルに維持できることが予見されました。

また、このことから現在福島の各自治体の非常に多くの場所で実施されている地下保管場所において、除染土壌の中間貯蔵施設への搬出が多少遅れても周辺住民の被ばく線量については、大きな懸念は起こらないものと予見されます。

ただし、これらの予見は、福島において共通的に適用できると想定される文献データ等を用いた事例解析結果に基づくものでありますから、個々の地域における追加被ばく線量が十分に低いレベルに維持されることを確認するための評価は、地域の実状に即した評価パラメータを用いて、より精度を高めた解析を行う必要があることが今後の課題となりました。

この課題への取組みとして、平成26年度の後半の調査検討では、解析対象地域の実状に即した評価パラメータを調査、収集し、その地域の実状に即した精度の高い評価パラメータを用いる事例解析を実施する予定です。この解析により、長期にわたっても簡易修復地の被ばく線量は低いレベルに維持されて推移し、放射性セシウムの減衰効果とも合わせてさらに低下することが明らかになると期待されます。

また、事例解析による上記のような評価結果は、汚染度の低い汚染土壌等を、何らかの事情で簡易修復地や地下現場保管場所に埋設した状態で長期にわたって保管を継続することになった場合に自治体などがその安全性をチェックし、住民の皆さんに説明する上での有効な判断材料になるものと思われます。

以上