活動実績等

九州電力(株)川内原子力発電所にて第170回安全キャラバンを実施

平成29年11月2日、鹿児島県薩摩川内市の九州電力(株)川内原子力発電所において第170回安全キャラバンを実施し、安全講演会と安全情報交換会を行いました。

1.安全講演会

九州電力(株)川内原子力発電所並びに協力会社の皆様59名が出席されました。              

講演会の冒頭、執行役員川内原子力発電所長 須藤 礼 様から、

「おはようございます。本日はお忙しい中、安全キャラバンということで講演会を開催していただくことになりました。ありがとうございます。
原子力発電所の安全安定運転の継続には、ヒューマンエラー防止が最も大事な課題だと認識しております。発電所としては、ヒヤリハットの事例を集める活動を、ヒューマンエラー防止のためのメインの取り組みにしています。今後、ヒューマンエラー低減ツールの活用を促進したいと考えており、今回のご講演の中で、ヒューマンエラー低減ツールの活用を教えていただけるのではと期待しています。
お集まりいただいた九州電力と協力会社の皆さん、本日の講演を参考にして、ヒューマンエラー防止に努めていただければと思います。」 とのご挨拶をいただきました。
とのご挨拶をいただきました。

ご挨拶の後、「安全文化醸成とヒューマンエラー防止 ヒューマンエラー低減ツールの活用」をテーマに、二件のご講演が行われました。一件目は、原子力安全推進協会システム基盤部安全マネジメントグループのグループリーダーである奈良順一から、二件目は中部電力(株)浜岡原子力発電所の安全品質保証部品質保証グループ 専門副長の鈴木英樹様よりご講演いただきました。


奈良は、「安全文化醸成とヒューマンエラー防止 ― ヒューマンエラー低減ツールの活用 ―」と題し、

◆ヒューマンパフォーマンスの定義とは、「振る舞い」と「結果」の二つを含んでおり、これらは観察して評価することが可能です。
◆ヒューマンパフォーマンス改善のためには、組織としてのあるべき姿をきちんと示すことが重要です。
◆ヒューマンパフォーマンス改善の戦略は、エラーの低減と防御策の二つです。このうち、エラー低減の考え方の一つとして改善ツールがあり、米国では色々なエラー低減ツールが使われています。
◆一方、NRC(米国原子力規制委員会)は、安全文化の評価に関連して、リスク評価の重要な要素を横断的に確認しており、そのテーマとして、「ヒューマンパフォーマンス」、「問題の把握と解決」、そして「SCWE(安全を意識した作業環境)」を設定しています。この中では、SCWEが重視されています。SCWEとは、安全に関して懸念点や不安があるとき、それをちゃんと言い出せるか、話ができる環境であるか、ということです。米国ではこれが大事なポイントとされています。
◆また、NRCはこの中で、ヒューマンパフォーマンスについて重要な特性として、「安全のためのリーダーシップ」や「個人のアカウンタビリティ」、「作業のプロセス」、「継続的な学習」をしているか、「効果的な安全コミュニケーション」、「疑問を持つ態度」、それに「意思決定」の7つの特性を示しています。つまり、米国でのヒューマンパフォーマンスの取り組みは、単なるヒューマンファクターの取り組みを越えて、さらに広い概念として、志向しているということです。
◆米国の原発の事例を見てみましょう。ある原発ではINPOの考えに沿ってヒューマンパフォーマンスに関する原則を掲げ、それに基づいてヒューマンパフォーマンス改善ツール(エラー低減ツール)を使用しています。ツールには「セルフチェック」、「作業前ミーティング」、「2分間ドリル」、「プレースキーピング」などがあります。各ツールの中には、避けるべき行為が記載され啓蒙されています。
◆話は変わりますが、今後、日本で取り組むべき課題を4点示してみたいと思います。まず、米国では発電所を孤立させない、という考え方が重要視されているという点です。米国では、原子力業界は他のエネルギー事業と競争しており、どこか1か所で問題が起きると、業界全体に影響が出てしまいます。ですから、そこに危機感を持って孤立させないように、そのためにそれぞれの事業者のリソースも相互に有効活用できるようにして、みんなで引き上げていくという考え方です。
◆次に、米国が日本と違うのは、階層ピラミッドの一番下まで含めて一つの発電所だと考える点です。協力会社も含めて、長い時間をかけて教育や訓練を施します。日本では、事業者とメーカーや協力会社の間で、お互いに見えなくなっていることがあります。こうしたところがあれば私たちは反省する必要があるのではないでしょうか。
◆3つめは、ヒューマンパォーマンス改善のための専門家の育成です。欧米では、各事業者の組織の中にヒューマンパフォーマンスの専門家がいます。日本の組織ではそういう人材がほとんどいません。JANSIとしても今後、専門家の育成が必要だと考えており、難しい課題ですが少しずつ取り組んで行きたいと考えています。
◆最後は、米国での地道な取り組みについてです。例えば「アカウンタビリティ」です。アカウンタビリティは、「見て、自分の問題として捉え、解決策を考えて、自ら行動(実施)していく」というものです。米国では、こうしたアカウンタビリティの考え方や、社員に対する技術教育などに地道に取り組んでいます。
本日のテーマである「エラー低減ツール」などもそうですが、社員が分かりやすく取り組めるように活動の全体を整備して明確にして行かなければいけません。日本で、このあたりのことをもっとまじめに取り組んでいく、検討していくべきだと思います。そこに、リーダーシップや安全文化との関わりも出てくるのです。

とのお話をしました。

引き続き、鈴木様から、「浜岡原子力発電所でのヒューマンパフォーマンス向上施策について」と題し、

◆浜岡原発では2013年以降、ヒューマンエラー低減ツールの活用について、二つの改善方針を立て活動しています。ただまだ改善途上であり、現在も改善を続けています。平成27年1月には「ヒューマンパフォーマンス向上手引き」を制定しました。
◆さて、改善の一つ目がエラー低減プログラムのポジショニングの明確化です。業務計画段階から実施に至るプロセスにおいて、どこでどんなエラー低減ツール使用するかを明確にしました。二つ目は、エラー低減プログラムの改善です。例えば、MO(Management・Observation)やPJB(Pre-Job Briefing)の導入、JIT(Just in Time情報)の作成・導入などです。
◆一つ目の「エラー低減プログラムのポジショニングの明確化」では、ツールは大事だから使うべし、というような従前の考え方から、各ツールを計画、実施、監視・評価というPDCAサイクルに当てはめてツールの位置づけを明確化しました。そして、ツールは課長のリーダーシップのもとで積極的に活用することとし、ルールではなくツールとして、使った後に有効性を評価するようなシステムに改善しました。
◆MOは、管理・監督者用のツールです。期待事項を設定し、これに照らして現場を観察し、気づき事項を抽出します。そして作業者と対話するような感じで簡単な講評を行います。決して追求するようなことはしません。また、各気づき事項はデータベースに登録し、強み、弱みを分析し具体的なアクションを決め、発電所大で展開します。
◆次にPJBです。これは当社だけでなく協力会社にも実施していただくので、技術者と作業者が使用するツールになります。従来から作業前のミーティングやTBM(Tool Box Meeting)は当たり前に実施してきましたが、PJBはこの後紹介するJIT情報などの運転経験を伝承させ、注意すべきことをより明確に把握することが目的になります。
◆JIT情報は、従前から運転経験や作業の留意点として作成されていましたが、各課で保有して共有されることはあまりありませんでした。そこで、共有のデータベースを作成し、協力会社も含めて誰もがアクセスできるようにしました。現在では、実際の作業に入る前に、このデータベースから関連するJIT情報を抽出してPJBで活用していただいています。現在も月に数件ずつ新規作成を進めています。
◆浜岡原発では、これ以外にもヒューマンパフォーマンスの向上のための取り組みを行っています。一つがCAP(Corrective Action Program)会合の改善です。これは不適合情報を共有するための会議です。これまでは情報共有を最大の価値観として行っていましたが、プラントパフォーマンスの追及が会議の価値である、と考えを改め、重要な案件にフォーカスするなど仕組みを変更しました。
◆他にも、過去の失敗事例を後世に伝えるための取り組みとして「失敗に学ぶ回廊」や「今日は何の日」などの施策を行っています。
しかし、まだ課題も多くあります。実は、ヒューマンエラーの発生件数はここ数年減っていません。整備したツールの浸透、有効性評価の仕組み、他施設の運転経験の取り込みや、安全文化に関わる協力会社とのさらなる連携など、やるべきことは多くあります。
今後も継続して改善していきたいと思っています。

との貴重なお話をいただきました。

講演会終了後のアンケートでは、

とても面白い内容であった。
ヒューマンエラー低減ツールの活用方法について、ヒントが得られた。
浜岡原子力発電所の取り組みが良く進んでおり、前向きだと思った。
かなり具体的な取り組みについてご紹介いただきありがとうございました。当所のAFI対応へも活用させていただきます。

などのご意見・ご感想をいただきました。


2.安全情報交換会

安全情報交換会では、まず最初に、川内原子力発電所の活動紹介と課題が提起されました。特に、特にエラー低減ツールを効率的に浸透させていくにはどうしたらよいかという課題について、午前中に行われた安全講演会の内容を踏まえながら、活発なディスカッションが行われました。

ディスカッションでは、「ヒューマンエラー低減のみを目的にするのではなく、発電所のパフォーマンスを上げることにも着目する」、「エラー低減ツールを局所的に適用するのではなく、全体最適を考えて運用することがヒューマンパフォーマンス改善につながり、これが将来のリスク管理にもなる」など、発電所の安全性と安全文化の更なる醸成に向けた意見が多数上がりました。参加者からは「海外で行われている方法や、全体のパフォーマンス向上等、参考になることが多く、有意義な情報交換であった」などの感想が寄せられました。


以上