活動実績等

(一財)電力中央研究所 我孫子地区にて第154回安全キャラバンを実施

平成27年9月1日、千葉県我孫子市の(一財)電力中央研究所 我孫子地区において、第154回安全キャラバンを実施し、安全講演会と安全情報交換会を行いました。

1.安全講演会

(一財)電力中央研究所 我孫子地区の職員、協力会社社員等85名が出席されました。

講演会の冒頭、環境科学研究所長の 菊池 弘太郎 様から、

「北海道大学 松王先生のご講演に先立ちまして、本日このテーマ『研究不正』に至った理由について、説明したい。
理研のSTAP細胞の問題等で、科学のミスコンダクトが世間を賑わしており、当所は生業が『研究』ということもあり、研究不正の問題は、組織にとって大きなリスクになるのではないかと考え、このようなテーマに至った。
併せて、この研究不正の問題と言うのは、誤った統計処理により結果的に不正になってしまったり、誤った引用が著作権の問題を引き起こしてしまったり、必ずしも意図して不正になるわけではないという面がある。
我孫子地区では自然現象に対する電力施設の信頼性、発電所の建設や運用に係る環境影響評価など、一般社会に影響の大きい研究を実施しており、意図するにせよしないにせよ、不正によって社会的な制裁を受けることで、当研究所だけでなく、社会ならびに電気事業に重大な損失をもたらす。
松王先生からは、何が不正か、なぜ問題か、不正が生まれる背景等々についてご紹介いただく。内容をよく理解いただくとともに、我々としても、ご講演を参考に安全文化の醸成に努めて参りたいと思っている。 」

とのご挨拶をいただきました。

ご挨拶の後、北海道大学理学研究院教授 松王 政浩 様から「研究不正問題にどう向き合うべきか - 個人として、組織として -」 と題してご講演いただきました。


講演では、

◆研究不正問題は、単に禁止事項を頭に叩き込んでおけば良いわけではなく、かなり複雑な問題である。そもそも研究不正は、70年代の後半、アメリカで問題視され始めた。80年代に入るとメディアに取り上げられるような不正事例も増加し、80年代後半にはアメリカ議会で取り上げられる事態となった。2000年、研究不正とは “Fabrication”(捏造)/“Falsification”(改竄)/”Plagiarism”(盗用)の3つであると、米連邦政府が定義した。しかし、不正をこの3つ(以下、FFPという)に限定するべきではないし、FFPに関してもどこからが不正であるという線引きが曖昧であるのが現状である。

◆このような状況の中で研究不正対策を考えていくうえでは、「なぜ悪いか」という倫理的な観点が必要になる。その際、「資本」「公正な競争」「他者に危害を与えないこと」の3つの要素に対して悪影響を与えるか否かという観点が、一つの手掛かりになる。また、仮に「悪」という認識が研究者の中に明確にあったとしても、なお「悪」を行ってしまうケースがあるという点も考慮に入れる必要がある。その際に取り入れなければいけない新たな視点は、心理学的な視点である。どんなに高い倫理観を持っている研究者であっても、所属するグループの影響を必ず受けてしまうため、心理学を基盤とするモラルが必要になる。モラル・アイデンティティをいかに醸成していくか考えることが、研究不正対策にとって重要なポイントである。

◆現在、ミシガン大学では、ビジネス分野における経理不正に関する分析結果が、研究不正にも適用できないか研究が進んでいる。経理不正の誘因として、「動機があること」「誰にも知られずに実行できること」「自分の中で不正行為が合理化できること」が挙げられるが、こういった観点で研究不正の誘因を整理することが、研究不正を起こさない環境整備につながる。

◆単に今ある体制やルールに従うことも重要なことではあるが、モラル・アイデンティティを醸成し、研究不正につながる誘因をできるだけ排除できる環境を整備することも、研究不正対策では非常に重要である。研究不正は内部告発によって明らかになる反面、告発内容が正しいか否かに関係なく、その後の告発者への処遇は非常に厳しいものになるのが現状である。もし告発を行う際は、まず職場体制がどうなっているかを厳密に確認したうえで告発の判断をしていただきたい。

との貴重なお話をいただきました。


講演会終了後のアンケートでは、

日頃より考えていた研究不正に関する問題と対策について、大変分かりやすく整理され、かつ深く洞察されており、勉強になりました。我々の周囲には、研究不正を行ってしまうワナが数多く存在することを再認識しました。本講演の内容を参考に組織として本問題にどう対処すべきか、改めて自身で考えてみたい。
理学と工学で研究不正が異なると思いました。一回跳べれば良い条件と毎回跳べるような条件を求められるのでは、異なるかと。研究不正も分類が必要と思いました。
研究不正についてはTVで見たり、本を読んだり、または、投稿論文の規程などで部分的には知っていましたが、本講演で初めて全体像を体系的に知ることができて、大変ためになりました。特に、個人のだけの問題に帰結せず、グループや環境要因も不正に影響している視点は新しいと感じました。
これまで「研究不正」について真剣に向き合う機会も少なく、改めて根本的なところから考えるよい機会になりました。「悪いと分かっていてもやってしまう。」というお話は、非常に興味深く、一方で、大変怖いことだと感じました。心理学的アプローチを取り込み、新しい観点で問題に立ち向かう必要があると言うことに気付かせていただき、感謝します。
不正の定義については難しいことを改めて認識いたしました。特に、トリミング、クッキングについての話は、大変参考になりましたが、具体的な基準を作る難しさを良く理解することができました。重ね重ねありがとうございました。

などのご意見・ご感想をいただきました。

2.安全情報交換会

安全情報交換会では、「研究者倫理」をテーマに、我孫子地区の中堅研究者と研究不正が生じない研究環境等について意見交換を行いました。









以上