協会情報

電気新聞「時評」 もんじゅ問題再考

平成28年12月12日
原子力安全推進協会理事長
松浦 祥次郎


政府がもんじゅ問題に決着を予定するとした年末に近づくにつれ、原子力関係者の見解が本紙をはじめメディアにかなり取り上げられるようになった。わが国の原子力エネルギー開発利用において、また将来の世界的エネルギー資源問題についても重要な問題であるだけに、活発な議論を歓迎したい。

これまでの関連識者の見解を概観すると、議論のあり方がそれで適切か否かは別として、見解は原子力開発利用に否定的立場と、肯定的立場の二項対立となっている。もちろん現在社会の常として、どのような問題でも「肯定」というより「条件付き肯定」が普通であり、原子力では特にその点に注意が必要であるが。

否定的立場では、当然ながらもんじゅ計画を即時に中止し「廃炉にせよ」との結論である。もんじゅにはすでに多額の国費が投じられながら、さしたる成果を上げておらず、これ以上の国費の注入は無駄と断じている。しかし、廃炉に至る必要資源と見通しは何ら示されていない。

条件付き肯定の立場でも条件には多少の差異があるが、重要な共通点は、核燃料サイクル完結と高速炉開発の重要性認識の一致である。そのための基盤的情報獲得と技術開発および人材維持育成にもんじゅが重要な役割を果たしていると指摘し、もんじゅにこれまで投じられた国費と、今後に必要な資源は十分に報われるとしている。

なお、核燃料サイクルと高速炉の将来的必要性は認めても、もんじゅ計画の存続を否定的にみる見解もある。

非常に不思議なことは、これらの見解の中に原子力規制委員会が勧告で示した、もんじゅの安全維持問題への考察がほとんど見られないことである。また、極めて遺憾なのは、双方の見解に投下資源の問題は含まれても、これまでもんじゅ計画に協力を続けてきた地元への配慮、対応策が何ら示されていないことである。どのような結論が出されても地元の理解、むしろ積極的な参画が得られる位でなくては、今後の着実な計画進展を望めないのではないか。

ところで、今般のもんじゅ問題議論の発端は昨年11月に原子力規制委員会から文科大臣宛てに出された勧告である。先に示した諸見解はもんじゅを巡る根本的な問題への見解だが、そこからは規制委員会が必要としている結論を導き出すことはできそうにない。前述の見解は、むしろ原子力委員会でなされる議論において提起されるべき見解と考えられる。なお規制委員会は勧告において、高速炉計画や核燃料サイクル完結の意義について何の言及もしていない。規制委員会の勧告の中心的課題はもんじゅの安全確保に向けた保全業務の不適合についてである。

この勧告への対応の難しさは、もんじゅ運営の資格がJAEAにないと断じ、その上で適切な運営組織を指定せよと要求したことである。この困難さは、文科大臣決定に基づいて設置された「もんじゅの在り方に関する検討会」(有馬座長)における真摯な検討でも、運営主体の備えるべき要件は示されたが、それに対応する具体的組織を同定することは見送られた経緯から察することができる。これは、わが国の高速炉開発の現状を知る者なら、ごく当然と理解できる。

一方、JAEAは平成25年に規制委員会から受けた「もんじゅ保安に関する措置命令」に対して、今年8月にこれに対する対応結果報告書(改訂版)を提出している。JAEAはこの報告書によって保全能力の適正な改善を示したという立場であろう。そうであれば規制委員会には、勧告は勧告として、この報告書の適否審査から問題解決の糸口を見いだす行政的な知恵と誠意を期待したい。

以上