協会情報

電気新聞「時評」エネルギー蓄積 考

平成28年10月5日
原子力安全推進協会理事長
松浦 祥次郎


高速増殖原型炉「もんじゅ」開発計画の継続如何(いかん)が政治レベルで決着されそうだとの報道が最近しばしば目に付く。わが国の原子力研究開発利用に多少とも関わった人たちがこの事態を深刻に憂慮していることは疑いない。しかし、関係者間での厳しい議論は表立っては見えない。問題の背景と経緯の複雑さ、重さを慮(おもんぱか)って、簡明率直な議論は自己抑制されているのであろう。

このような場合は、迂遠(うえん)のように見えても「わが国の原子力研究開発および利用の今および将来の意義」について多面的に再確認すべきであろう。わが国の現代および次世代社会が必要とするエネルギーを、利用性、安全性、入手の安定的永続性、経済性等の諸特性を考慮して、どのようなシステムとして提供できるかが根源的重要事項である。

エネルギー源はしょせん自然界から得る以外に方法はない。具体的には水(河川、海洋、地熱)、風、太陽光、草木、化石燃料、生物油脂、人力、畜力、そして核物質である。

 これらの中で、多くの人が居住する環境下で差異が少なく、地政学的にも紛争の要因とならないのは、いわゆる再生可能エネルギーと海洋溶存の核物質である。これらを最大限、最適に組み合わせたシステムの構築と活用により、他の資源獲得競争を緩和できるとも考えられる。

エネルギーの大量利用形態はほとんどが動力源、熱源、光源である。現代では諸種のエネルギーを2次エネルギーの電気エネルギー(電力)に変換することによって、どのような利用形態にも適応できるようになった。利用できるエネルギーの範囲は、エレクトロンボルト(eV)を指標尺度としてゼロeVからペタeVにまでわたる超広範囲になった。エネルギーを電力に変換し、自由に制御できるようになったことが現代文明を可能とした最重要基本要件の一つである。

しかし、電力利用における大きな弱点は、相当大量の電力を貯蔵し自由に利用することができないことである。ある程度の電気量は化学的な電池や静電容量でためることができるが、大型発電所が数年にわたって発電するほどの電力量を貯蔵することは、現代の技術では予想もできない。

一方、再生可能エネルギーは日周期や年月にわたる変動、災害を避けることが本質的に不可能であるため、安定的な高品質電力として利用するには、電池に貯蔵し、調整して利用する必要がある。また、仮に大容量の電池や蓄電装置が開発されたとしても、その短絡事故の規模は現在では想定が極めて困難なものである。

自然現象には台風や豪雨、大地震、大いん石など想像を絶する規模のエネルギー蓄積現象がある。これらは物質の空間的な移動現象によるエネルギー蓄積であるが、これとは異なった自然のエネルギー変換が質量をエネルギーに変換する仕組みである。

核物質は、質量つまりエネルギーを核力によって核構造の中に蓄積したものと理解できる。現代の科学技術は、このように核内に蓄積された質量を核分裂によってエネルギーとして取り出すことを可能にした。

一方で、核反応が停止している核物質は極めて安定している。すなわち、核物質は極めて大量のエネルギーを長期間にわたり、安全安定に貯蔵している電池のようなものと考えても良い。

再度このような見方を確かめ、安全確保を大前提に長期的原子力研究開発および利用の方針を設定すべきと考える。もんじゅ問題への方針は、この基本的認識と、現下の諸情勢を適切に勘案し、凍結をも含めて合理的に決定するべきと考える。

以上