協会情報

電気新聞「時評」 原子力利用の社会的適合を

平成27年4月27日
原子力安全推進協会代表
松浦 祥次郎


さきごろ開催された第48原産年次大会において非常に印象的であったのは、天野IAEA事務局長の講演をはじめ多くの招待基調講演者がこれまで以上に今後の世界の、特にアジア地域での原子力エネルギー利用の重要性とその拡大を予測していることであった。筆者はその内容に同感しつつも、現在日本社会一般に広まっている原子力忌避の心証との乖離を強く感じざるを得なかった。

このような、いわば原子力利用の重要性と一般社会的心証の不適合にどのように立ち向かうかは当然ながら最も重要な今日的課題であり、同年次大会ではそれを主テーマとしてセッション2「このままでいいのかニッポン」で講演とパネル討論が行われた。

パネル討論では、パネリストの一人で過去にかなりの広報活動に参画した経験者のコメントに深い同感を覚えた。「上から目線で理解と受容を促すアプローチは有効でない。むしろ、発生予測事項についての事細かで率直な事前説明のほうが、共感を得るうえではるかに効果的ではないか。判断は受け取り手に任せるべき」との趣旨であったように記憶する。

筆者は東日本大震災の数カ月以前に、ある研究会で「そもそも原子力の問題解決が困難になる原因は何か」について基調報告を依頼されたことがある。この時、過去の我が国の原子力事故・不適合事例等を改めて調査して、その結果に自分自身驚いたことがある。ほとんどの事例において、解決に長期間を要するに至った根本原因は科学技術的不適合そのものではなく、むしろ何らかの社会的不適合が原因となっていた。なかでも、典型的な例は、原子力船「むつ」の初出力上昇試験における放射線漏えいと、高速増殖原型炉「もんじゅ」の中間出力試験中のナトリウム漏えい・火災である。

いずれも科学技術的問題は、技術開発段階でしばしば生じる設計の未経験・未熟が原因であり、技術的解決に基本的困難はなく、修理自体は困難なく完了できた。しかし当該事故には、いくつもの事前・事後の不適合があり、社会的に大きな事件になってしまった。

「むつ」では地元漁民の納得を得る前に、港の出口を遮る漁船群を強引に分け退けて出航を強行した直後の放射線漏えいであった。このため、大湊の母港への帰港を拒否され、「むつ」は50日余を太平洋で漂流物として漂わなくてはならなかった。結局、「むつ」が地元の理解を得て実験航海を完了するまでにはその後約20年を要し、それで我が国の原子力船計画には終止符が打たれた。

「もんじゅ」では、先行国の開発経験では何度かのナトリウム漏えいの例があったにも関わらず、その閉じ込めに自信を持ち、地元への説明にナトリウム漏えいの可能性と漏えい発生時の対処の説明を行っていなかった。さらに漏えい事故発生以後の情報公開等に不適切があり、社会的大事件に至ってしまった。その後、ナトリウム漏えい対策は完了したが他にもいくつかの問題を生じ「もんじゅ」開発計画は大幅に遅れ、現在もまだ建設段階が継続している。

いずれも根本的な科学技術的困難に遭遇したのではなく、次々と社会的不適合を起こしたことが計画遅延の最大原因である。

その他の事例でも、事の大小は異なっても社会的不適合が問題解決長期化の主原因となったのは大同小異であった。原子力利用において科学技術的課題が重要なことは当然であるが、それ以上に社会的適合を得るために、経験に学ぶ努力と知恵が不可欠である。技術的不適合には品質保証的アプローチが工夫され、見事な成果を上げている。社会的課題は特性がずっと多様で複雑であろうが、社会的不適合の原因解析を組込んだ類型的アプローチを工夫できるのではなかろうか。

以上