協会情報

電気新聞「時評」 人材育成と先進型炉開発

平成27年3月11日
原子力安全推進協会代表
松浦 祥次郎


今年1月手元に届いた米国原子力学会情報誌「原子力ニュース」昨年12月号の表紙を見て、思わず「何これは?」と虚を突かれた。ADVANCED REACTORSと黒々と表紙に印字が踊り、その下部に10基の先進型炉のオンパレードがあった。この号では全120ページの内、45ページにわたってこれら炉型構想の最近までの開発状況が解説されていた。

先進型炉開発については世紀が替わった頃に、次世代の、すなわち第4世代原子炉を構想し、開発すべきでないかとの雰囲気が原子力先行国の間で高まり、10カ国の専門家がフォーラムを構成して議論を進めた。いわゆるGIF(第4世代国際フォーラム)である。時あたかも、TMI事故、チェルノブイリ事故の余韻がようやく鎮まり、各国の発電炉稼働率も向上して原子力エネルギー利用への社会的評価が高まり「原子力ルネサンス」との言葉が交わされるようになっていた。もちろん我が国の専門家もGIFに参画し活躍した。しかし、残念ながらもんじゅ事故、JCO事故、電力大手の発電炉関連事故・トラブルなどの影響でかなり苦しい状況であった。

GIFでは共同作業の結果、次の6つの炉型が第4世代炉として取り上げられることになった。すなわち、ガス冷却高速炉、鉛(または鉛・ビスマス)冷却高速炉、溶融塩炉、超臨界水冷却炉、ナトリウム冷却高速炉、そして高温ガス炉であった。しかし、その後もGIFの活動は継続されているものの、特定の炉型を選択して国際共同計画として開発するところまでは至っていない。

GIFは国家間の共同作業であるが、原子力ニュース誌が取り上げた炉型はいずれも原子炉ベンダーあるいはそれを目指す事業者が自らの構想と努力で開発を進めているものであり、自社の事業として売り物にする意図で開発している。技術的内容は、これまでの原子力技術開発に基礎を置いたうえで新しい試みを加えており、またGIFの議論も十分参考にしていると見られる。

事業化の目論見を強く支えている基盤には、世界のエネルギー資源の長期的セキュリティ、地球温暖化防止、未だ原子力利用の恩恵を享受していない人々の生活レベルの向上などのためには、原子力がさらに広い範囲で大きな役割を果たすとの強い認識がある。そのためには、まず何より大事故においても放射性物質の環境への大量放出が完全に防止できること、かつ経済性が合理的に成立し、運用が決定的に容易であること、長期間の定常運転が可能であることなどを構想成立の要件としている。

ところで、人材育成の重要性は常に言われ続けてきている。我が国の原子力分野では、特に3・11以後その声が高い。しかし、減少や終焉に向かってゆく産業への若い人材の参入は、いくら声を大きくしても、必要性を説いても、若者の挑戦を掻き立てるのは無理な相談ではなかろうか。やはり将来に役立つ新しい可能性への挑戦こそが魅力であり、また若者はその挑戦でしっかり育つ。

若者が原子力に魅力を感じる仕事は先に述べたような、より新しい炉システムの構想・構築であろう。3・11の教訓をしっかり踏まえたうえで、我が国こそが「究極的に安全な炉構想」、「核分裂生成物の処理を含む原子炉システム」に挑戦し始める時期ではないか。もう少し具体的に言えば「反応度事故フリー、かつ冷却材喪失事故フリーで核分裂連鎖反応を持続させる体系」、かつ連続して核分裂生成物の処理もその中に含む原子力システムである。この構想は、おそらく多くの科学・技術的困難に遭遇するであろう。そこにこそ最も重要な基礎・基盤研究の種が見えるに違いない。意欲のある若者がそれを見過ごすはずはない。

以上