協会情報

電気新聞「時評」福島事故、緊急時対応の問題点(3)

平成25年3月8日
元日本原子力技術協会最高顧問
石川 迪夫


前2回の問題点(1)(2)では、事故現場の技術的な問題を指摘したが、今回は東京での問題だ。A級戦犯物の非常識、沢山ある。

その1が、政府による米国B5b通告の秘匿だ。米国は9.11テロを受けて原子力テロへの対策を命じ、03年頃世界の原発保有国に、非常用電源の強化が急務と極秘裏に通知した。この命令文書の条項を採り通称B5bと呼ぶ。

B5bを受けて、各国は電源を補強した。だが日本政府は通告を秘匿して、事業者に強化勧告すら出さなかった。勧告を実行させていれば、福島の事故は防げたであろう。B5bの秘匿、戦犯というより犯罪であろう。

その2は、無計画での強制避難だ。世論は早期避難を評価しているが、放射線量から言えば15日まで避難は必要なかった。

避難の準備、計画は事故当日から必要だが、実施は放射線状況の確認後でよい。避難中の交通渋滞で老人2名が死亡したのが無計画の証し、狼狽避難が原因だ。SPEEDI問題もその一つだ。

原子力事故での避難に時間的ゆとりがあるのはプロの常識。避難準備も無いまま強行した責任は何処にあるのか、その罪は重い。

その3、日露戦争の昔、政府は戦費充足と早期講和だけに腐心し、戦には一切口を挟まず、大山元帥に任せた。この挙国一致の責任分担体制が、勝利を呼び込んだ。

官邸に集合した、内閣、官僚、東電首脳は、吉田所長に現場情報を督促するばかりか、指図までした。側面から現場を支援するべき官邸は邪魔なだけの権力者集団、支援への才覚も努力もなかった。

例えば、電気が無くて苦慮している現場には、仮設電源の設置を自衛隊に命ずべきであった。電気があれば2,3号炉は助かったであろう。子供でも分かる分別が官邸集団にはなかった。

その4、NHKの事故報道は、東電松本部長代理が出演するまでの約一月半、枝野官房長官、保安院官僚、東京大学教授らが務めたが、発表内容に間違いや隠蔽が多かった。不勉強な原子力安全委員会はデタラメ先生と揶揄された。

カーター大統領は、原潜運転の訓練経験を持つ。だが、TMI事故の総指揮を原子力規制委員会デントン局長にゆだねた。局長は事故情報を全て掌握して、その解釈をマスコミに伝えた。これが事故を沈静化させた。その洞察力の確かさ故に、同委員会は、今でも米国で最も信用の厚い官僚組織だ。

不勉強な人達のテレビ出演によって、原子力界全体が国民の信用を失い、原発を知る若手専門家が公の場から排除され、無責任な原発停止が続いている。日本にとって非常に不幸な事態だ。

その5、不勉強者が力を持ち得た背景には、原子力安全保安院の誤った規制がある。ジャパン、アズ、No1とばかり諸外国の安全活動を無視し、品質保証イコール安全といった、無茶苦茶な独善規制を10年に渡って強行した。

この結果、原子力安全についての勉強が発電所現場から消え、品質保証規定の細則遵守に発電所員は追われた。この状況下で事故は起きた。前号で指摘した現場問題には、この誤った安全規制が醸成した風潮が裏にある。

以上の5つが、僕の見る東京でのA級戦犯事項だ。現場での技術問題より多い。 

その故に、福島の事故は人災という人もいるが、事故の主因は津波と長期間の電源喪失だ。これらがなければ事故は起きていない。述べてきた緊急時の問題点は、事故災害への副次的原因だ。

人災と決めつけ、東電のみを悪者にして、政府関係者は知らぬ顔の半兵衛とは、社会正義に反しないか。この是正は現政権が考えるべきことだ。

事故翌月の一昨年4月以来、福島事故の時評15編を続けて書いた。ここで一段落とする。

以上