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電気新聞「時評」福島事故、緊急時対応の問題点(1)

平成24年11月19日
元日本原子力技術協会最高顧問
石川 迪夫


書きたい話ではないが、福島第一事故を総括する上で欠かせない事柄だ。ところが、問題の摘出、判定が難しい。理由の一つは、事故現場で苦労した現場職員が、口を閉ざして当時を語らないからだ。

口を閉ざすのは、政府、国会両事故調の発表と食い違うと、責任問題を生じるからだ。一般的に、事故の実体究明が日本で進まない一端は、この社会風習にある。

加えて、調査会は原子力専門家を村出身として加えなかった。だから調査は核心を突いていない。

かくて喫緊の課題、緊急時の問題指摘も、十分な吟味検討を経ぬままに、テレビなどの俗悪談義で気分的に決まっていく。坊主憎けりゃと、神主に経を読ませて勤まるものでは無かろう。

語れないなら、これまでの経験を拠り所に自分で推考する他ない。情報不足は承知の上だが、神主の経よりは功徳はあろう。

ここで、事故の粗筋を復習しておこう。地震と津波で全電源を失い、1日後に1号炉が溶融、爆発し、3日後には3号炉が、その翌日に4号炉が爆発した。同じ頃、2号炉の格納容器が破損し、発電所付近の放射能レベルが一挙に百倍ほど上昇した。以上だ。

なお、その前後の避難騒ぎや、燃料プールへの空中散水などは、主題から離れるので、除く。

問題点その1は、非常用復水器(IC)の作動誤認問題だ。この誤認が、1号炉を溶融、爆発に至らせ、苦労して繋いだ電源ケーブルを壊し、塁を2~4号炉に及ぼした。事故を災害に拡大させた対応の遅れの一つと、僕は見る。

ICは、蒸気の自然対流で炉心を冷やす設備で、電気が無くても働く。地震直後の停電でICは自動作動した。ところが、原子炉が冷えすぎたので、隔離弁を開閉しての一台断続運転に切り換えた。運悪く弁を閉じたのが津波の来襲の直前、これで冷却が中断した。

だが東電の技術首脳は、本部も東京も、隔離弁は開いている、冷却は続いていると、全員が思っていた。いや、思いこんでいた。本事故におけるA級戦犯ものの、作動誤認問題の出発点である。

冷却を失った炉心は、当然温度が上昇する。高温になった被覆管は水と反応して水素を発生し、その反応熱が炉心を溶融させた。

この集団誤認を糺し得るのは、現場の実情報だけだ。津波が一段落した時、当直長はICの作動を確かめるため、発電所本部に蒸気吹き出しの目視確認を依頼した。17時頃、「出ている」との連絡があり、作働と判断したらしい。

同じ頃当直長は、IC水位調査のため直員を原子炉建屋に派遣した。二重チェックだ。だが運転員は、放射線レベルが通常より高いとの理由で、建屋入口から引返した。この行動、僕には不可解だ。

18時過ぎ、直流電源が一時復活した。この時当直長は、隔離弁を開いてICを作動状態に置き、本部に伝えた。だが、蒸気の吹き出しが弱く直ぐに止まったので、弁を再び閉じた。この中断操作が本部に報告されていない。ここに、現場と上層部の情報把握に、明らかな乖離が生じた。

停電、引き続く余震、現場は多忙だったろう。しかし、原子炉冷却は目下最大の関心事だ。報告がなかったのも、不可解だ。  

この二つの不可解が実行されていれば、冷却中断に気付き、是正措置を容易に講じ得たろう。この時刻、炉心はまだ溶融に至っていない。惜しい逸機だった。

IAEA調査団は事故直後の現場視察で「献身的に最善を尽くした」と、現場作業員を称えた。僕も同感だ。その最善の中に介在した誤認や不可解だ。介在するには介在した理由や背景があろう。

我々が人である以上、緊急時に完璧を求め得ない。だが誤認や不可解の理由、背景の公表こそが問題を解く鍵、今後の改善強化に役立つ。是非明らかにして欲しい。

以上