協会情報

会長挨拶

会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア 2023年6月現在、日本では、10基の原子力プラントが高いパフォーマンスを維持して運転されており、再稼働を目指す発電所も着実な進捗を続けています。JANSIも、この点においていくつかの大きな役割を果たしました。世界的な新型コロナウイルスの大流行から徐々に脱却し、日本の環境、経済、安全保障の観点から原子力の重要な役割が認識されつつある時期に、このような進歩を遂げていることには重要な意味があります。

運転中の発電所はプラント性能を測定する指標で管理されており、安全性と信頼性において世界最高水準の性能を維持していることが確認されています。更に7基のプラントが安全性に係る原子力規制委員会の審査完了を経て安全対策工事を終えつつあり、将来の再稼働のための準備を進めています。また、その他の発電所も、再稼働に必要な審査を完了させるために懸命の作業を続けています。日本原燃の再処理施設は、世界最高レベルのオペレーションを達成するための基準を取り入れ、操業に向けて前進を続けています。JANSIがこれまで行ってきた活動の評価は、日本の原子力事業者が安全で信頼性の高いパフォーマンスを達成しうるかどうかによって決まります。

2022年11月、JANSIは設立10年を迎えました。JANSIは、原子力の自主規制機関が備えるべき基本的枠組みを確立すべく注力してきた新興の組織から成熟した組織へと変化を遂げ、これらの枠組みを効果的に実行し継続的に改善することへと軸足を移しました。また、産業界の強力な支援の下、JANSIが推進してきた世界最高水準の安全性の浸透も進んでいます。このような進歩は、JANSIの長期戦略「10年戦略」が定めた方向性に沿って実現されました。私たちは計画のあらゆる面で前進しましたが、特に大きなマイルストーンの達成を二つ取り上げたいと思います。一つ目は、2022年10月にWANO(World Association of Nuclear Operators)の理事会が、JANSIのピアレビューがWANOピアレビューと同等であると認めたことです。これは、私たちのピアレビューが国際的に認められたプロセスに基づいて、世界最高水準の安全性の実現を目指して実施されていることを認めるものです。JANSIのピアレビューは、WANOから同等性を認められた世界で最初の発電所ピアレビューになりました。二つ目は、関西電力美浜発電所において、ピアレビューが無い期間の発電所パフォーマンスの監視(パフォーマンス・モニタリング)を強化するためのパイロット・プログラムを実施したことです。このパイロット・プログラムは、WANOが実施する「Enhanced Performance Monitoring」の取り組みとともに、WANO東京センターと協働して実施されました。速報では、パフォーマンスについての有益な洞察が発電所や本店のリーダー層に提供されたことから、前向きな評価を得ています。これら二つの重要な成果は、JANSIの「10年戦略」に対する産業界の支持を示すものであり、同時にJANSIがWANOの事業戦略である「Action for Excellence」と緊密に連携していることを表しています。これらは、効果的な原子力安全のオーバーサイトを実現する上で重要な二本の柱となっています。

今日、私たちは、原子力産業界に直接的な影響を与えるいくつかの世界的な潮流を経験しています。その中には、エネルギー安全保障に対する脅威、気候変動による地球環境への影響、信頼性が高く合理的な価格でのエネルギー供給についての経済的懸念が含まれます。これら世界規模での課題について語る時、原子力のもつ重要な役割が注目されるようになりました。これは、日本のGX実行戦略など現在の原子力施設、資源を最大限に活用しようとする政策に顕著に表れています。これらの外的要因に加え、「10年戦略」が着実に進んでいること、また発電所のパフォーマンスが継続的に改善していることを踏まえて、この戦略を見直すこととしました。現在、当初設定した「10年戦略」の中間点にさしかかっており、JANSI理事会の支持を受けて10年戦略の見直し及び改定が必要であると判断されたことから、JANSIは、産業界と連携しながら、包括的な戦略の見直しを進めています。私は、この議論と大きく変容する時代環境をより良く反映させた新しい戦略が完成することを期待しています。

上記のような課題に対処するために原子力をどう活用するのか、また原子力が将来どのような役割を果たすのかについては、現在の運転状態が安全であるかどうかに大きく関わってきます。そのような課題に応える中で、私たちの原子力安全への取り組みが揺らぐことがあってはなりません。原子力事業者及び産業界における健全な安全文化は、産業界全体の継続的な成功に不可欠です。環境の変化は人の心にストレスをもたらすことがあり、それが組織内の安全文化を徐々に蝕んでいくことにも繋がります。それは2002年に発生した米国デービスベッセ発電所の原子炉上蓋腐食事故が教えてくれた教訓でもあります。私たちは、各発電所が原子力の健全な安全文化を定期的に、目に見える形で強化していくことが重要と考えます。正式に決められた手段で安全文化の健全性を定期的に測定し、パフォーマンスの低下等が確認された場合は、安全文化の低下が一因かどうかを慎重に検討しなければなりません。JANSIでは、健全な安全文化の強化は常に最優先事項です。

JANSIには、「Excellence Starts at Home(エクセレンスは足下から)」という信条があります。私たちは、ピアレビューやその他の活動の基準に示すように、事業者にエクセレンスの追求を期待しています。しかし、協会内においても、エクセレンスは私たちの行動すべてにおいて不可欠なものです。このことは、ピアレビューのWANO同等性の認定や、パフォーマンス・モニタリングのパイロット・プログラムの成功に最も顕著に表れています。同時に、リーダーシップ研修の実施、アニュアルカンファレンスの企画・開催、連絡代表者と発電所のコミュニケーション、運転経験情報の検討や安全性に関する分析、安全文化診断活動などの諸活動においても発揮されています。エクセレンスの文化は、総務部や企画部といった協会内の内部機能にも根付いています。Excellence Starts at Homeは、JANSIにおける生き方であり、常に大切にしたいと思う生き方です。

原子力安全のエクセレンスという共通の目標を追求する上で、事業者の皆さまのご支援をいただいていることに対して、あらためて感謝申し上げます。

一般社団法人 原子力安全推進協会
会長 ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア