協会情報

JANSI設立10年を迎えて

会長理事長


2022年11月15日、一般社団法人原子力安全推進協会(Japan Nuclear Safety Institute : JANSI)は、設立10年を迎えました。今日、世界最高水準の原子力安全を推進するJANSIのプログラムと活動は、日本の原子力産業界に構造的に織り込まれています。過去10年間にわたり私どもにご支援、ご指導を賜りました会員および関係の皆さまには、心より厚く御礼申し上げます。


JANSIは、「福島第一原子力発電所事故のような過酷事故を二度と起こさない」という原子力産業界の強い決意のもと、米国におけるINPO(Institute of Nuclear Power Operations : 米国原子力発電運転協会)をモデルとして設立されました。以来、「世界最高水準の安全性の追求」をミッションとし、原子力事業者の自主的、継続的な安全性の向上への取組みを牽引すべく努力してきました。事業者が安全性のパフォーマンス基準を絶えず追求できるよう、JANSIの約200名のスタッフが、基準の設定、パフォーマンスの監視、教育訓練および各種支援を行っています。


このJANSI草創の10年間には、産業界の安全性を強化するための新しいプログラムを開発・実施する中で、様々な困難に直面しましたが、会員各位およびINPOやWANO(World Association of Nuclear Operators : 世界原子力発電事業者協会)等の海外組織からのご支援もいただきながら、以下の大きな成果をあげることができました。


1.ガバナンス
2018年度、日本の電力会社の全CEOがJANSI理事会に加わったことにより、JANSIのガバナンス体制が大幅に強化されました。この大きな変革により、JANSIへの産業界のコミットメントが明確となり、JANSIに対して高い安全性基準を設定し実施するための権限が与えられました。また、同年度には、理事会においてJANSIの「10年戦略」が承認されました。産業界とJANSIの12の目標と、これらの野心的な目標を達成するためのロードマップも明確に策定されています。本戦略は、産業界およびJANSIの活動の進捗を把握し評価するための有用な手段となっています。


2.ピアレビュー
定期的に実施される発電所ピアレビューは、JANSIが、発電所のパフォーマンスを監視し、最高の安全性基準の実施を求めるための主要な手段です。現在、日本の全原子力発電所がピアレビューを受けており、稼働中の発電所についても多くのピアレビューを実施してきました。発電所と電力会社本店の管理層は、これらピアレビューの結果を活用して、安全性のパフォーマンスを継続的に改善しています。そして、2022年10月には、このJANSIの発電所ピアレビュープログラムは、WANOによる数年間の厳格な評価プロセスを経て、WANOのピアレビューと同等であると認定されました。これは、全世界で実施されている発電所のピアレビュープログラムの中では、最初の事例となりました。


3.原子力の安全文化および安全性向上策の提言・支援
JANSIは、国際的に認められた健全な原子力安全文化のモデルを使用しています。これは、事業者の安全文化について定期的な評価を行うために用いられるものであり、その評価の結果は上級管理者に提供され、安全文化の健全性を継続的に改善するために活用されています。加えて、JANSIは、国際基準に基づいて、発電所の安全性と産業界の運転経験の詳細なレビューを実施し、安全性を向上させるために事業者に対して様々な提言を行ってきました。これらの提言は事業者によって実施されており、JANSIはその実施状況についてフォローアップを行っています。


4.リーダーシップ研修および人材育成
JANSIは、リーダーシップと緊急時対応を主眼とする一連の研修コースを開発し、事業者に提供しています。これらの研修コースは、発電所の管理者から事業者CEOに至るまでの各リーダー層を対象としています。事業者は、これらの研修コースに積極的に参加しており、高い安全性を重視した組織の基本概念と、そのような組織を牽引するリーダーの行動を改めて確認することに寄与しています。


5.福島第一原子力発電所事故の教訓
JANSIは、福島第一事故の教訓を全活動に組み込んでいます。特に、毎年3月に開催しているJANSI アニュアル カンファレンスでは、福島第一事故の教訓を振り返り、より一層強固なものとする努力を積み重ねてきました。また、JANSIは、多数の事故調査報告書から得られた教訓を整備した教訓集を作成しました。この教訓集は容易に検索、参照することができ、教訓をJANSIと産業界の日常活動に効率的に取り込むことを可能にしています。


現在、日本では、6発電所10基が、大幅な安全性向上を経て運転を再開しています。これらの発電所が、JANSIのミッションと価値観を受け入れ、高いレベルでの安全性と信頼性をもって運転されていることは大きな意味をもっています。更に多くの発電所が再稼働に向け準備を行う中で、JANSIに対する産業界の期待が高まるにつれて、JANSIの行く先には重要な任務が待ち受けています。設立10年を迎え、JANSIは、誕生間もなくの未熟な状態から、重要なプログラムが実施され機能している成熟した組織へと成長しました。しかしながら、これはあくまでも、長い道のりにおけるひとつの通過点に過ぎません。私どもJANSIは、これからも決して揺らぐことなく、自主規制組織としての独立性を堅持しつつ、日本の原子力の安全性向上を目指して、「たゆまぬエクセレンスの追求」に邁進してまいります。会員および関係の皆さまにおかれましては、今後ともどうか倍旧のご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

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