活動実績等

関西電力株式会社 高浜発電所にて第177回安全キャラバンを実施

2019年7月26日、関西電力株式会社高浜発電所において、第177回安全キャラバンを実施し、安全講演会と意見交換会を行いました。

1.安全講演会


講演会の冒頭、原子力安全推進協会 システム基盤部 本田部長から、安全キャラバン開催に当たっての挨拶の後、高浜発電所を代表し、高浜発電所長 木島 様から、

「皆様、おはようございます。本日は宮城学院女子大学の大橋先生と原子力安全推進協会の皆様にこのような機会を作っていただきお礼申し上げます。
安全に関する私の経験を少しだけ申し上げますと、一つは当社美浜発電所3号機の配管破断事故がございました。今でも当時のことを痛烈に思い出すことがございます。ここでは作業管理におけるリスク評価に問題がございました。もう一つは当社ではございませんが、福島第一原子力発電所の事故が挙げられます。原子力安全については、原子力事業者全体の意識として、日本の原子力安全については大丈夫という慢心があったと思います。
この二つの重大な事案に接しては、いつも初心に返り、慢心がないことが大事だと思っています。
そういった中で高浜発電所では、原子力安全につきましては関西電力が主体となって取り組み、作業安全につきましても、弊社が主導的に活動を進めるのですが、現場第一線で作業される協力会社の皆様それぞれの方が主体となり、現場第一線の目をもって取り組んでもらいたいと思っています。現場ではいろんなリスクを感じながら作業を進められているとおもいます。我々関西電力が現場に行かず机上で話を聞いているだけではわからないリスクも存在すると思います。お互いが見過ごすことなく危険なことは危険と言って、それを直していくということを愚直にやっていくということが必要だと常々感じております。
今日は皆様、一人ひとりが、安全に対する活動や思いを感じ取って帰っていただければと思います。

とのご挨拶をいただきました。



講演会では、


宮城学院女子大学 学芸学部 心理行動科学科 教授 大橋 智樹様から「福島第一事故以降の安全マネジメント~気付ける、変われる発電所~」と題してご講演いただきました。
この講演会には、関西電力株式会社の社員、協力会社の社員等92名が出席され、終始熱心に聴講されました。

①人はなぜミスをするのか
◆人間には環境に適応して生き延びるために備わった本能的な認知の仕組みがある。本能的な能力であるため、現実とは異なって認知されることがある。例えば、何か一つに注意を振り向けて、しっかり見ようとすればするほど、それ以外のこと (実際に起きていて、目に入っている変化であったとしても) が見えなくなるということが起きてしまうのが人間の特性である。
◆一方、人には補完の能力が備わっており、見えていないものでもあたかも見えているように認知してしまうことがある。人は経験(知識)を有しているが故に、人間の脳が勝手に補完してしまい、見えていると判断してしまう。これは一度経験するとどうしてもそう見えてしまう人間の習性のようなものである。一度わかってしまうと、分らなかった時の認知にはもう戻れない生き物であることを認識しておかなければいけない。
◆人はあることに集中して見ている時には、そのほかのことが全く見えないことがある。例えば、事故調査において、「これに気が付かないわけがないじゃないか。見ていたら絶対に気づくよね。」という風に思ってしまうことがある。そのため、知っている人の「後知恵」による間違った対策や事故調査結果となってしまう。事故調査では、人間の様々な認知特性を理解して、事故の当事者になってしまった人たちの、その時の気持ち(認知)を推測してあげなければいけない。
◆5Sによる整理整頓がエラー防止に効果的だというのは、様々な状況の認知が短時間でできるからだ。短時間でわかるという事はそれだけ人間にかかる負荷が小さいということで、負荷が小さければ他のことに回す余力が出てくる。余力が出てきた結果として安全に費やせるリソースが増えることになる。
◆人は先入観による思い込みからは逃れられない。ただし、先入観と言うのは大事である。KYやリスクアセスというのは先入観を作る活動である。先入観を作って、こうなったらこう動くことを叩き込んでいく、ある意味教育・訓練である。叩き込まれた対策については大抵の場合はうまくいく。

②人はなぜ期待どおりに動かないのか
◆人は、集団の中では、一人でやっている時と同じようにやっているつもりでも、集団の人数が増えるに伴い、一人ひとりの努力水準が低下してしまうという特性がある。これは、本人が手を抜こうと思ってやっているのではなく、人間の特性である。
◆この特性を踏まえると、ダブルチェックやトリプルチェックは何人でチェックしているかを知ってしまうと、本人は一生懸命にチェックしていたとしても、知らず知らずに手を抜いてしまうことになっている可能性がある。自分が何人目にチェックしているか、そういうことを本人が分からない状態でやっていただかないと「ダブルチャック」「トリプルチェック」は意味がないものになってしまう。
◆人間は「空気を読んでしまう」習性がある。誰が考えても間違っていることであっても、集団が何がしかの空気を作ってしまえば、人はいとも簡単に集団が作り出した「何がしか」に同調してしまうことがある。例え、自分では「間違っているのではないか」と思っていても、集団の空気に同調してしまうことがある。
◆人間は人道的に間違った指示を受けたとしても、指示を出した人が冷静沈着で権威のある人だった場合は、服従の精神が生まれ、その指示に従ってしまうことがある。人間の脆さ、弱さが出てしまう生き物だ、という事である。

③安全なんて存在しない
◆「安心しないことが、結果として安全につながった。」という事が震災からの学びではないか。
◆これまではマニュアルどおり動くことが安全と考えられていたが、震災以降は、「適切な自律性をもつマニュアル人間」を作らなければいけない。
◆つまり、マニュアルに書かれていないことが起きた時に、自律的に正しい判断ができた場合は助かり、そうでなかった場合は助からなかった。そういう事を震災では学んだ。

④変えること、変えないこと
◆震災を経験したことで、ありとあらゆることを変えなければいけないような雰囲気になっているように感じているが、すべてを変えなければいけない訳ではないと思っている。規制基準対応は当然やらなければいけないが、検討した上で変えないという選択肢もあって良いのではないか、反省し過ぎは良くないのではないかと思っている。
◆発電所で行う訓練はフルブラインド訓練が多い。想定した訓練を行うという事は想定外を想定内とすることである。しかし、これからは、どうやっても収束には持ち込めないという設定の訓練もあっても良いと思っている。訓練でパニックになるとか、頭が真っ白になるという事を経験することで、本当にシビアな状況が発生した時に頭が真っ白になる程度が、少しは減るのではないかという風に思っている。

との心理学の事例を交えた貴重なお話を頂きました。

講演会終了後のアンケートでは、

人間が起こすエラーの本質の一端がみえたような気がします。
改めて自分自身の行動について考え直す機会となった。経験などだけに頼らず、立ち止まって考える機会や時間を増やしたい。
安全を考える適切な自律性を持つロボットを作るというのが、安全文化の真髄だと思っています。これからも頑張っていく勇気が湧いてきました。ありがとうございました。
安全文化を担当しており、社員にこちらの思いを伝えることの難しさを日々感じています。重要なことを真面目に伝えるだけでなく興味を引くように自分の体験談をユーモアたっぷりに伝えるなど、相手の理解を深めるために必要な気づきを多く得られました。
現場をよくお存じの講師の話なので共感して聴けることが多くあった。短い時間であったが、教育や指導の場で役に立つと思う。
心理学を踏まえたヒューマンエラー防止のための話は興味深かった。一方で何を最終的に伝えたかったかが分かりづらかった。

などのご意見・ご感想をいただきました。


2.意見交換会

意見交換会では、関西電力(株)原子力事業本部の労働安全のとりまとめ部門、同じく原子力事業本部の原子力安全文化のとりまとめ部門、ならびに高浜発電所の安全文化とりまとめ部門の11名が出席し、高浜発電所の活動紹介と課題が提起されました。
「様々な活動を展開しているが、結果として労災は起きているので、安全に関する活動はまだまだ改善の余地がある。」との強い思いをご紹介いただき、それぞれの活動に対して現場目線で改善を進めるために意見交換を行いました。

意見交換会後のアンケートでは、

今回の意見交換会で得た行動のヒントをこれからの業務で活用したい。
ハットヒヤリの収集方法について面倒な手続きを無くし、簡単な入力で集められるようにすべきと考えていたが、特定のプロセスに関するものなど、分析が難しいものが集まることを知り、安易に考えてはいけない事を知った。
質疑内容な多岐にわたってしまったために、深く意見交換することが難しかった。ファシリテータの的確なハンドリング力の向上をお願いしたい。

などのご意見・ご指摘をいただいた



以上