活動実績等

三菱マテリアル(株)那珂エネルギー開発研究所にて第135回安全キャラバンを実施

平成24年11月30日、茨城県東海村にある三菱マテリアル(株)那珂エネルギー開発研究所において、第135回安全キャラバンを実施し、安全講演会と安全情報交換会を行いました。

1.安全講演会

 三菱マテリアル(株)社員の29名が出席されました。

講演会の冒頭、三菱マテリアル(株)那珂エネルギー開発研究所 所長 上田真三 様から、

『当社は全社的に会議の最初と最後に『ご安全に』と唱和する習慣がある。これは、社内のどこかの工場が行っていたものを社長の号令で全社に広めるということでスタートした。現在、全社的な「ゼロ災プロジェクト」が進められている。一方、当研究所は設立以来、無事故無災害の記録を続けており、私はこの結果を誇りに思っている。しかし、これからもゼロ災を続けていくためには、自分たちの知識や経験を過信することなく、常に他の業界の知見を得ながら新しいことに取り組んでいかなければならない。今回の松尾先生のご講演はよい機会であり興味深く聞かせていただきたい。このような活動により、安全意識が高まるだけでなく、品質の向上や組織の活性化にもつながることを期待している。』

とのご挨拶をいただきました。

 ご挨拶の後、北九州市立大学文学部教授 松尾太加志様から「ヒューマンファクターから見たヒューマンエラーの防止」と題して、講演を行いました。

講演要旨

◆日本で医療安全の取り組みの契機となった横浜市立大学病院の患者取り違え事故(1999年)は,思い込みとリスク認知の低さが問題であったと考えられる。なぜ,このようなヒューマンエラーが発生してしまうのだろうか。

◆ヒューマンエラーは錯誤・失敗や不安全行動という形で生じるが,それらは柔軟で適応的な人間の基本的な行動特性に由来するものであり,防ぐことは難しい。そのため,ヒューマンエラーの問題を人間の責任に帰しても事故防止の解決にはならない。問題となるのは,錯誤・失敗が生じることとリスク認知の低下によって不安全行動が生じてしまうことであるが,これらの問題を解決するには人間の行動特性を知らなければならない。

◆人間の基本的な行動特性は,資源の分配,トップダウン的処理,ヒューリスティックな判断,自動処理,学習可能といった点である。これらの特性は効率的で柔軟な処理ができる特性であるが,同時にエラーも誘発してしまう両刃の剣である。つまり,「もともと,人間は正しい決定や行為ができているわけではない」という認識を持たなければならない。 また,人間がリスクを過小に評価してしまう傾向があるのも,効率的に行動を行いたいためであり,そのため,人間は認知的バイアスによってリスクを過小に評価してしまう。

◆そこでエラーを防止するには人間に改善を求めても無理であり,モノ,情報,システムの改善が必要となる.エラーを防止するには(1)エラーの発生可能性を低減,(2)エラーに気づかせる,(3)エラー(事故)を防御する,という3段階を考える必要がある.エラーの発生の可能性をなくすためには人間の負荷をできる限り低くする,エラーに気づかせるには外から気づかせる外的手がかりのしくみを設ける,エラーを防御するには効果的なバリアを設けることが必要である。

◆また,不安全行動を防ぐには,安全への意識を高めることが必要である。安全への意識が高まれば,リスク認知の向上,知識・スキルの向上,ヒヤリハットの報告につながる.リスク認知の向上によって不安全行動の抑制が期待され,さらに,安全のために知識やスキルを向上させなければならないという動機を高めてくれる。

◆安全意識の向上には,組織としては個人の行動を活かすことがより重要である.そのためには,ヒヤリハットや事故を教訓として活かさなければならない。ヒヤリハット報告は安全に関する情報として共有され,リスク認知を高めることにつながる。また,それがモノやシステムの改善につながることもある。

◆安全と効率はトレードオフにあるため,安全のための行動はコストになってしまう.そのため,組織には「安全を優先させなければならない」という安全文化の醸成が求められる。コストをかけてまで安全を優先させるという文化を醸成するには組織のトップの意識が強くなければならない。

との貴重なお話をいただきました。

講演会終了後のアンケートでは、

大変分かりやすく、かつ、日頃身に覚えのあるネタをベースにその理論面を解説していただいて面白かったです。すぐ取り込める策もありそうです。

エラー要因の深堀り(人間の特性やシステムの問題など)は、普段、漠然と必要性を感じつつも、答えが見出せないまま放置してしまうことが多く、松尾先生のご講演は大変参考になりました。

具体的な事例やシミュレーションを交えたご講演で、非常に興味深く拝聴させていただきました。特に印象深かったのが「人ははいと言ってしまうもの」というお話です。作業員に指示を出すことがありますが、「はい」と言われたら分かったものと思ってしまいます。細かい手順すべてを復唱してもらうのも効率的ではないので、キーになるようなポイントを相方で確認するようにしていますが、忙しいときは書類にマークしてあるから分かるだろうなどと省略することもあります。つい効率化してしまう本能に打ち勝って、安全に正確に作業が進められるようにしたいと思います。ありがとうございました。

などのご意見・ご感想をいただきました。

2.安全情報交換会

  安全情報交換会では、「ヒューマンエラーと熟練者の災害防止について」と題し、まず始めに、原子力安全推進協会の浜田から「解析業務の品質向上」に関する紹介に続き、三菱マテリアル㈱殿から「現場の災害事例」に関する紹介の後、意見交換を行いました。

以上