協会情報

電気新聞 時評 ウエーブ「関電事案を考える」

2019年11月7日
原子力安全推進協会顧問
松浦 祥次郎


9月末に記者会見で関西電力岩根社長が公表した事案には驚き以上にひどい違和感を覚えた。

その次週の記者会見で更田原子力規制委員長は率直な言葉として「まず驚いたし、憤りも感じた。さらにはあきれ果ててしまった」と述べている。しかし同時に「この件は炉規法上の対応をするような事案ではない」と判断している。これは本事案の特性を明確にするという点で重要と考える。

関電から2度目の記者会見で公表された約1年前の関電内部委員会調査報告書は違和感と疑問をさらに深めた。会長・社長を含め幹部20名が金品の贈与を受けたとあるが、そのほとんど全部は返却されている。しかも贈与者の森山氏はすでに死亡している。贈与と返却の対応で決着している。問題は無いはずだが、実際は森山氏が強硬に返却を拒み、無理やり受け取らせたため、関電は仕方なく「いずれ返却するが、暫時は各個人で保管するように」とさせていた。全く異様な話である。これは普通の意味でのガバナンスやコンプライアンスの話ではない。それを適正に機能させることが関電ほどの大会社が何らかの事情のために不可能に陥っていた。

その表面的事情は森山氏の強制力が関電側に畏怖・恐怖を感じさせるほど強かつたということである。どのような経緯が氏の存在をそれほど強大なものにしたのか。

森山氏の生涯の事績を公開されている情報に照らすと、地方公務員として見事な業績をあげており、科学技術庁長官賞、法務省人権擁護局長感謝状等、ほかいくつもの受賞があり、瑞宝双光章に叙勲の栄誉にまで達している。この様な氏の実績は地元の有力者として影響力を増大させていった道程を示していると言えよう。

さらにその背景には、日本社会の歴史・文化が構築されてきた経緯の中に、普通は余り表面化しない慣習的影響力ともいえるものがある。例えば村落共同体における入会権、水利権、漁業権などの類につながるものである。

特に地域社会との良好な関係を築き、それを継続して行くことが必須の事業、例えば電力、交通運輸、土木建築等の業界では、事業者が地域の有力者と特別な友好関係を構築し、事業推進に強い協力を期待することがよくある。

この協力関係の思想・心情が地域住民と共有され、その支持を得ながら、事業が適正に運営されるのは理想的である。ちなみに、全電力事業者のトップは就任挨拶で「地域と共に考え、地域に寄り添い、地域と共に歩み、地域と共に栄えること」を経営の基本理念として述べている。

地域・地元の有力者と事業者の協力関係が両者の良心と知恵による強い自制の元に事業が適正に運営されている限りは問題ない。しかし、どのような協力関係にも利害・得失の変化によるリスクの陥穽があり得る。何らかの異常、不適正の兆候が察しられる場合は、早急に断固とした対処が必至であり、あらゆるリスクに対する深層防護の準備が必須である。

今回の関電事案は、この様なリスクの陥穽に落ち込んだことではなかろうか。関電は事業の発展史上の諸々な困難を解決してきた。特に黒四開発での大破砕帯の突破、美浜2号機の蒸気発生器細管破断事故対処、美浜3号機2次系配管破断事故で経験したその勇気、知恵、苦渋、努力を再現して再生への決意と歩みを衷心より期待したい。

以上