協会情報

電気新聞「時評」デコミ研の訪台現身説法

平成25年7月23日
元日本原子力技術協会最高顧問
石川 迪夫


表題を見て、何のことか分からない人は多かったろう。現代風キャッチフレーズを真似て、アチャラカ語を混ぜた悪戯である。

先ず、デコミ研を知る人が少ない。96年、JPDRの解体撤去完了を機に創設された民間団体で、40名ほどの会員が月一回手弁当で集まり、廃炉の勉強と経験交流、後輩の育成に努めている。

現身説法とは強烈な表現だが、日本語に直せば「出前説明」に当たる。表題は、デコミ研が訪台して廃炉経験を伝えたという意味である。

現身説法にいたる経緯が悲しく辛い。福島事故への日本の対応策を見習って、台湾政府は、運転中の原発寿命を40年とし、かつ建設中の第4発電所の運転開始を国民投票で決する、と定めた。

その背景に、福島第一発電所の実情がほとんど伝わらない中で、台湾マスコミの書く風説だけが国中を一人歩きし、実はその背後で、日本からの「反脱卒」を掲げる原子力勢力による浮説宣伝活動が後押ししているという。

台湾は、中国の国連加盟によってその座を失い、IAEAへの参加は認められていない。そのため正確な原子力情報の入手は、専ら日米に頼ってきた。

その日本に事故が起きて情報発信が途絶え、米国は第四発電所の建設遅延問題により、信頼を失っているという。信用の置ける原子力情報源が今ないのだ。

そこへ日本の反対派の活発な情宣活動だ。台湾で福島事故が起きると何十万の人が死ぬといった嘘を実しやかに講演する似非学者や、福島の被害者と自称する活動家の訪台が後を絶たず、これらに煽られた原子力反対デモは、台北で20万人に達したと言う。

因みに日本は、昨夏からの総理官邸デモが最大1万5千人というから、台湾は反対派にとって笑いの止まらぬ大成功の地になった。いまや反対派は有名人扱いで、訪台相次ぐという。

気の毒な話しだ。同情に絶えないが、これは反対運動と言うよりも心ない弱い者イジメだ。その証拠に、日本の反対派がモスクワや北京で福島事故を訴え、反原子力活動をしたとの話は聞かない。

台湾政府の40年廃炉決定は、この勢いにやや押された嫌いがある。台湾の1号機は既に35年の運転歴があり、廃炉まで残りは5年だ。3年前に提出義務のある廃炉許可申請書の作成まで、日は僅かしかない。だが台湾技術者にとって廃炉は始めての試みだ。20年以上の昔話でも、JPDRを廃炉した初経験談を聞きたいというのが、現身説法依頼だった。

嘘、迷信を打破するには、事実を提示するしかない。台湾もまた、それを望んでの依頼という。ならば老人の昔話より、今日の廃炉現状を知るデコミ研の人達に要請を伝え、台湾に廃炉工事の実体を伝えて貰うのが最良策と考え、応援を頼んだのが始まりだった。

4~5名の応援をと思っていたところ、義を見てせざるはと、17名もが応援を希望した。現場にはみな強いが、会議発表に慣れた人達ばかりでない。この二ヶ月ほど、英字で発表を書きポスターを作り、手慣れぬ会議準備に苦労をして下さった。

この熱意が台湾に伝わった。先方も、負けじと盛り上がった。当初40名の出席予定が、100名を越えた。会議2日目の最終説明に残った人数が80名を越えた。説明が具体的で質問が多かった。昔の原子力開発時代を彷彿とさせる、実質的な会議であった。

日台間の原子力交流は古いが、年を経るに連れ形式に流れ、本音を言わない語れない会議に変貌していると、台湾側は言う。この弊を現身説法は破ったらしい。

福島事故後、3年目に入った。日本政府も産業界も、福島の浮説一掃のため、正確な情報に基づく現身説法を始めてはどうか。

以上